【読書感想】5歳児が「おねがいゆるして」て書いて死ぬ今こそ読むべき小説『キッズファイヤー・ドットコム』

こんにちは、タイトルのニュース記事が辛くて仕方ないりとです。

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うちの娘も5歳なんですよ。

5歳なんて、やっとひらがなが書けるようになって手紙書くのが楽しくなって「ぱぱおしごとがんばって」とか書いてくれる時期なのに、なんでこんな悲しい言葉を綴って死ななきゃいけないんでしょう?

でもね、何かの統計で見たのですが、それでも高度経済成長期って呼ばれてた頃に比べれば、子供の虐待件数は減ってるらしくて、つまりずっと子どもの虐待は続いてるわけですよね。

多分、このニュースに心を痛めるだけでは、今後もぼくらは似たニュースを目にし続けなければならないんだと思うんです。

そんな折、今のどうにもならない子育てに一石を投じるような小説を読みました。

カリスマホストが赤ちゃんを拾う物語

キッズファイヤー・ドットコム

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あらすじ紹介程度のネタバレがあります。ご注意くださいね。

中世ファンタジーをテーマにしたホストクラブ「BLUE BLOOD」の店長 白鳥神威が、いつも通り姫たちに甘い夢の世界を見せ、今日もレジェンドを生んで帰宅した高級マンションの自宅前に、ベビーカーが放置されていました。

中を覗くと、赤ん坊がいます。

そして、個人情報を黒塗りされた母子手帳と、数枚の紙おむつ、そして「この子をよろしくお願いします」と書かれた手紙が一緒にあったのです。

枕営業はしない神威でしたが、付き合った女の子は何人かいます。付き合ってた頃はどの娘とも本気だったし、そんな何事にも前向きに全力な自分のことが好きな神威は、過去の自分がとった行動が招いた結果を、受け入れなければ過去の自分を嫌いになってしまうという理論から赤ちゃんを育てることにします。

しかし彼はホストの一人暮らしです。仕事と育児が両立しません。

そんな中、彼は妙案を思いつきます。

かつて「童貞を捨てたかったから」という理由でホストとなり「女は臭い」という結論に至り歌舞伎町を去ったのち、六本木ヒルズでITベンチャーを立ち上げた友人の三國孔明と「クラウドファンディングで子どもを育てる」という、初めて泣き喚く赤ちゃんと相対した瞬間に赤ちゃんが泣く理由をスマホで検索し、ミルクの作り方やゲップのさせ方をYouTubeで見てそっくりそのままトレースできるカリスマホストならではのアイデアです。

一見ドタバタ、しかし内容は社会派

物語は、神威や彼の周りにいる同僚たちが牽引していくので、文体は常にアゲアゲのノリノリです。彼らが「姫」と呼んでいる「お客様」以外との会話は常にフィーリングです。

しかし、それがかえってこの物語が扱う重たいテーマをうまく中和して、するする読ませるのです。

詳しくはネタバレになりますので書きませんが、神威は赤ちゃんと対峙することで「世の中の女性たちがどれほどの圧力・閉塞感に耐えながら子育てをしているか」「今の日本社会がどれほど子育て世代に厳しいか」に気づいていきます。

今まで「24時間なんでも揃う」と思っていたドンキに紙おむつがなくて途方にくれたりするシーンは「ああーわかるぅー!」ってなりました。

「今できること」対「倫理」

神威たちは「まずは知ってもらうこと、そのためには炎上だ。」とシャンパンタワーのてっぺんから赤ちゃんがおしっこする画像をネットに上げたりします。(笑えました)

全ては「今まさに育てることが困難な状態の赤ちゃんを最速でなんとかするため」の判断なんですね。

ぼくは以前書いた、女性議員さんが赤ちゃん連れで議会に出席したニュースのことを思い出しました。

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この時もいろんなご意見いただきました。

ぼくは「今できること」と「倫理」のバランスなんだろうなって思いました。しかし、この物語で神威たちは爽快なまでにロジカルに「今できること」に傾注していきます。そして、その結果起きる問題点もしっかり書かれています。

これはまるで、小説という体を取りながら「今の育児問題に対してこんな極端な解決策はどうでしょう?みんな考えてみてくれよな!」と言われてるようでした。

カリスマホストたちのウェーイな育児プロジェクトは一体どうなるのか!?

5歳児が悲しい手紙を書いて死ななくても良い世の中のためのヒントを探すためにオススメしたいです。