【読書感想】東京五輪を控えた現代社会の闇を書いた小説「野良ビトたちの燃え上がる肖像」

こんにちは、りとです。

また考えさせられる小説を読んだので感想を書きます。お時間ありましたらお付き合いください!

野良ビトたちの燃え上がる肖像

野良ビトたちの燃え上がる肖像

 

物語を楽しむ、というよりは今の社会の問題をフィクションで描いた社会派モノでした。気楽には読めません、でも続きが気になって止まりませんでした! 

いつも通り、核心に触れないあらすじ程度のネタバレ含みますのでお気をつけください!

野良ビト=ホームレス

主人公の柳さんは、以前は建築現場で看板を書いて働いてたのですが、事故で体を壊して派遣になり、ヤケを起こしてギャンブル漬けになった挙句妻子に逃げられ、ホームレスになり河川敷で空き缶を集める暮らしをはじめてはや20年、という人です。

冒頭は、河川敷で暮らす人々の日常や交流が描かれるのですが、ある日柳さんは穏やかでない看板を見つけます。

「野良ビトに缶を与えないでください」

結構ショッキングなフレーズです。そしてその看板を見た頃から、河川敷にホームレスが次第に増え始めます。

情報通の知り合いに聞いたところ「2年後に控えた『東京世界スポーツ祭典』のために、街を綺麗にする運動が広まっている。都心で居場所がなくなった連中がこの辺りに流れ込んでいる。」というのです。

柳さんたち古参組は、これまで周辺住民に迷惑にならないように生活してきました。しかし生きるために必死の新参者たちの行動は、次第にエスカレートしていきます。そして最後にはとんでも無いことが起こるのです。

あちこちに散りばめられた問題

生活保護が受けられない

柳さんたちのご近所さんには、生活保護の申請に行って難癖つけられ「そんなこと言うなら頼らない!」とタンカ切った人も少なからずいるようでした。そういえば、NHKの番組で貧困女子高生が炎上したことがありましたよね。その一方で不正受給している人もいるのが事実で、ずっと解決していない解決しなければならない問題ですよね。

・子連れのホームレスも登場する

読んでて本当にいたたまれない気持ちになりました。小さな子どもがホームレスってのは本当にシンドイですね。夫の暴力から逃げてきた、という母子が登場します。3年くらい前だったか、「居所不明児童生徒」(戸籍上いるはずなのに、今現在どこに住んでいるかわからない小・中学生)が全国で1000人以上いる、というニュースを見たことがあります。その後、あまり聞かなくなったのですが、どうなったんだろう?と思わされました。

・ホームレス狩りにやってきた少年の心の闇

柳さんが、あどけなさの残る少年から暴行を受けるシーンがあります。その少年は、富裕層が暮らす一帯に住んでいる子なのですが「結果を出してない奴は人間以下だ」といった趣旨の暴言を柳さんに浴びせます。これは成功者の親から「結果を出せ」と日頃言われ続けていることを想像させられます。

・頭上を飛ぶドローン

柳さんたちの住居の上をドローンが飛んでいる描写がなんども出てきます。ドローンは人が住んでいるエリアには飛ばしてはいけないことになってますよね。つまり「人とみなされていない」ということですね。そして、きっとどこかで動画配信されてるんだろうな、とか想像させられます。

「東京世界スポーツ祭典」というネーミングセンス

これ間違いなく「東京オリンピック」が元ネタでしょうが、ダサいですよね。それはそのまま、著者さんが東京五輪に対して抱いている「ダサさ」を比喩してるのかな?と感じました。(違ったらごめんなさい)

エンブレム問題やら、新国立競技場のデザインやり直し問題やら、最近ではあんまり大々的に報じられませんでしたが、現場のチーフに新卒の若手を当てがわせて過労で自殺に追い込んだり、新しい競技場に使われている木材が「輸入品」だったりと、いろんな問題が今だにちらほら出てきてますよね。

東京に決まる前からいろいろ問題を孕んでいましたが、やるからにはなるべくたくさんの人が「日本でやってよかったな」て思うような祭典になるといいな、と思ったりしながらも、地方民のぼくはどうしてもどこか「他人事」でそんな立ち位置に対しても「おい!」とツッコミを入れられたような気がした本でした。