こんにちは。
今日は2017年上半期芥川賞受賞作品『影裏』の感想を書こうと思います。
ネタバレはあまりしない主義なのですが、話が短すぎるため若干ネタバレしてしまうと思います。
1時間で読めました
めちゃくちゃ淡々と読めます。
「内藤」さんという30代前半男性が主人公です。
彼は仕事の関係で岩手に赴任します。しかし、あまり人と話をするのが好きではないらしく、誰とも深く関わらず毎日を過ごします。
彼の趣味は釣りで、休日のたびに釣りにでかけるのですが、ある日同僚の「日浅」という男の趣味も釣りと知り、意気投合して以後一緒に釣りを楽しむようになります。
誰とも深く関わらない淡白な平日と、日浅と2人で釣りしてすごく濃厚な休日を繰り返していたあるとき、突然日浅がなんの連絡もなく会社をやめます。
今まで用があれば職場で直接話しをしていたため、携帯電話を持っていない日浅と内藤さんは連絡するすべを失ってしまいました。
また淡々とした日常に戻ります。
ある日、内藤さんに岩手に転勤する前に付き合っていた元恋人の福島さんから電話がかかってきます。福島さんは近くまで来たので電話をかけて来た旨と、性転換手術をして女性になったことを告げます。
それからしばらくして、日浅から突如連絡があります。
彼は、転職して冠婚葬祭の互助会勧誘の営業マンになっていました。
久々に2人で釣りにいくことになりますが、ある時ちょっとした口喧嘩をしてしまい気まずい別れ方をしてしまいます。その直後、東日本大震災が起き、再び日浅と連絡が取れなくなってしまいました。
…と、すでに7割近くのあらすじを書いてしまいました!!
まるで抽象画や水墨画を眺めているかのようでした
この物語は、内藤さんの視点で進むのですが、内藤さんが初めから知ってることについてはなんら説明がされることなく話が進みます。読者は置いてけぼりです。
元恋人の福島さんなんて突如登場して「性転換して女性になった」って「あれ?内藤さん男だから、性転換前の福島さんも男で、つまり同性愛者か!?」と突如内藤さんのプロフィールが埋まったりとかして、そうすると、それまでの日浅さんとの釣りエピソードも見え方が変わったりと、そんな展開が何度かあります。
東日本大震災も起こるのですが、内藤さん自身にはあまり被害がないらしく、さらっと「今日雨が振りました」くらいの勢いで書かれます。
とにかく淡白なのです。
しかし、削ぎ落として削ぎ落とした結果、書いてもよかったのに書かれなかった大量のエピソードが行間にあるように感じられるのです。
これは、一見「なんだこりゃ?」て思わされるような抽象画や、必要最低限の要素で画面を構成した緊張感ビシビシの水墨画と対面した時のような印象です。
ぼくは絵が好きなのでこんな例えになりますが、きっと文学の世界では、詩や短歌、俳句に近いのかもしれません。
あの手この手で「よく本を開いてくださいました!どうぞ楽しんでください!!」と言ってるのではなく、真剣構えて「よくぞこの本を開いた…!はたしてお主に楽しめるかな…?」と言われているような気がしました。
それぞれの良さ
実はぼく、エンターテイメント性の高い小説って読んでるときは楽しいのですが、こうやってブログで感想書こうとすると「面白かった!」しかかけず、記事にできないことがあります。
そういった意味ではこの小説は、こんなに感想を書かせる力を持ってるお話と言えるかもしれません。
しかし、だからと言って文学性の高い物語の方が崇高とかそんなことは思いません。
こんなに頭使う物語ばかりを読み続けるのも疲れます。
難しい話のあとは簡単な話が読みたくなります。
人が死ぬお話のあとは、登場人物全員がハッピーエンドになるお話が読みたくなります。
いろんな良さがあるお話をあれこれ読んで、いろんな楽しみを味わいたいです。
「ちょっと難解な物語に手を出してみたいな」なんて思った時にちょうどいい短さのお話かもです。