【読書感想】『みかづき』戦後からゆとりまで日本の教育と向き合った家族の物語

お元気ですか?りとです。

今日は森絵都さん著の小説『みかづき』を読み終えたので感想を書きます!

めちゃくちゃ熱い小説に感動の震えがほとばしっていて、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください!

みかづき

みかづき

 

戦後の日本教育にかかわった親子3代56年の物語

昭和36年、大島吾郎さんは学校の用務員として働く好青年でした。

彼は本来の仕事のかたわらで、ひょんなことから勉強についていけない子供たちを相手に用務員室で勉強会を開いていました。

穏やかな性格の吾郎さんは、子どもを惹きつけ、勉強に集中させる才能があったのです。

戦中戦後のゴタゴタで教員免許を得るとができなかった吾郎さんは、どんな形であれ子ども相手に勉強を教えられることに喜びを得ていました。

そんな彼のもとに、他の子とは違う雰囲気の女の子が勉強を教わりにきます。

彼女は蕗子ちゃん。

蕗子ちゃんは「勉強がわかっている子」でした。しかし吾郎さんはそのことを問い詰めるでもなく他の子と同じように接しました。

蕗子ちゃんは、「先生以上に教えるのが上手い用務員さんがいる」と保護者の間で噂になってる吾郎さんを偵察するよう母親に言われていたのでした。

この、蕗子ちゃんのお母さんである赤坂千明さんには、大きな野望がありました。

彼女は、戦中と戦後で全く違うことを子どもに教えることを学校に命じた文部省に激しい怒りをおぼえています。そして、勉強についていけない「落ちこぼれ」の子どもを救うため、当時まだ世間に浸透していなかった「塾」をつくり、文部省と学校教育に違を唱えようとしていたのです。

そこで、教員免許を持っていないにも関わらず、学校の教師より教えるのが上手い吾郎さんに目をつけ「一緒に塾を開きましょう!」と猛烈アピールをします。

夫婦であり共同経営者になる2人、それから…

子どもに勉強を教えることに関しては天才的な吾郎さんですが、私生活でグダグダなところがあり(この部分はぜひ物語を読んでいただきたいです。賛否両論あるかと思いますが、ぼくはなんかこういう「隙」が「親しみ」に感じます)千明さんに弱みを握られなし崩し的に協力することになります。

そしてページをめくると蕗子ちゃんは中学生になっていました。

そうなんです。

この小説は吾郎さんと千明さんが夫婦になり家庭を築きながら、戦後の高度経済成長、受験戦争、ゆとり教育、脱ゆとりとどんどん学校教育の方針が変わっていく激動の最中、塾を少しずつ大きくしていく大河ドラマなんです。

ぼくはあまり見たことがないのですが、朝の連ドラみたいなノリで、テンポよくそれぞれの時代の劇的な出来事がジェットコースターのように語られていくのです。

それは、文部省の塾叩きだったり、夫婦の不和だったり、子育ての悩みだったり、大きくなっていく塾内の派閥争いだったり、大人になった子どもたちがそれぞれ直面する困難だったり、そんな話にハラハラさせられる一方で、いろんな登場人物のいろんな小さな喜びや幸せにほっこりしたりうるうるしたり、本当に忙しいお話でした。

もぉね、各エピソードごとに小説一冊分くらいになるんじゃないか?ってお話が次から次へと語られていくんですよ。その間、作中で流れる歳月は56年!すごいです。フルコースです。

タイトルの意味が語られる見事なラスト…!

「見事」とか偉そうに言いましたが、ラストでこの小説のタイトルが「みかづき」である理由が語られるのですが、そのシーンが本当によかったんです。

そのせいで、ここまで読んできたいろんなエピソードのことを思い返さずにはいられず、読み終わった後も余韻が止まないのです。

 三月のライオンが、将棋のことわからなくても楽しめるように、この本も日本の教育のこととかよくわからなくても楽しめます。

偶然知り合った男女が夫婦になり家族をつくり、一緒に事業を大きくしていきながらいろんな困難に見舞われて、立ち向かったりくじけたりしながら、2人の意思が子どもや孫に受け継がれていく、そんな話が大好きな方にぜひオススメの一冊です!