【読書感想】『東京會舘とわたし』行ったことないのに最後には愛着を感じてしまう

今日感想を書く、辻村深月さん著の小説『東京會舘とわたし』をぼくは1度積読してしまっていました。

東京會舘とわたし(上)旧館

東京會舘とわたし(上)旧館

 

この物語は、 1922年にオープンした東京の丸の内にある宴会・レストラン施設「東京會舘」が主人公です。

建物が主人公だけど、イメージがわからず入りにくかった

物語は、オープン当初から2015年の「2019年のリニューアルオープンに向け一時閉店」までの90年近くの東京會舘の歴史を追いながら、各章、それぞれの時代の所縁の深い人物が主人公となって東京會舘でのエピソードが綴られていく物語となっています。

ところが、冒頭の第1章の話がかなり鬱々としてるんですね。

小説家志望の若者が主人公で、作家を志しながら上京したものの鳴かず飛ばずで田舎に引っ込み、東京に住む人たちに羨望と敵意を同時に抱き複雑な気持ちを持ちつつも、大好きなクライスラーの演奏会が東京會舘で開かれることを知り、タイミング悪くこじらせた風邪でボロボロの体を引きずって行く、というお話で、地方在住で東京會舘のイメージがなく、東京に憧れる気持ちもリンクしてしまう上に、主人公の性格と体調からなんか気持ちよくお話に入り込めず、一度読む手を止めてしまいました。

しかし、以前読んだ辻村深月さんの『ハケンアニメ!』もすごく面白かったのでずっと気になってて、この夏改めてページをめくっていったのですが、読めば読むほど面白くなっていく構成になってたのです。

核心に触れない程度のネタバレにとどめますが、鬱々としたエピソードは最初の物語だけで、東京會舘は広く一般に開かれた社交の場という信念を貫くために、日々努力し伝統を積み上げていく社員やスタッフのエピソードや、そんな東京會舘に触れて感動する人々のエピソードが、関東大震災、第二次世界大戦中と、その後のGHQによる占領、高度経済成長に東日本大震災と世の中の歴史とともに綴られていきます。

自分の中に歴史が溜まっていく

はじめは全く知らない場所だった東京會舘ですが、読み進めていくにしたがって、自分の中に東京會舘のエピソードがストックされていくんですね。

これが一定量溜まって、上下巻の上巻が終わる頃には、どっぷり東京會舘ファンになったような錯覚を覚えるんです。ええ、一度も食事したことなくても、です。

そして、前のエピソードで登場した人物や料理なんかが後のエピソードでも登場するという演出のおかげで「ぼくもその人知ってますよ!いい人ですよね!!」とか「あ、その料理の由来、ぼくも知ってますよ!」てな具合で、登場人物たちの会話に参加したいような、そんな気持ちにさせてくれるんです。

後になっていくほど、どんどん話が面白くなっていくわけです。

そう考えると、第1章の主人公である「何者でもない田舎のひねた若造」を優しく受け入れてくれるエピソードは「どんな人も受け入れる東京會舘」を紹介するための話なんだな、なんて思ったりしました。

ぼくは不覚にも「若い頃デートで旦那さんとよく来た東京會舘に、旦那さんに先立たれ、金婚式の日に1人でやって来たおばあちゃん」が主人公の章で泣いてしまいました…!

思い出の建物ありますか?

私ごとですが、ぼくはかつて奥さんにプロポーズしたお店が閉店してるんですよね。一応、ぼくなりにできうる限りの演出をした上でのチョイスの店で、プロポーズした当時は正解だったと思ってるんですが、数年経ってなくなっちゃうとそれはそれでさみしいものです。

そういった意味では、思い出になりそうな出来事を、伝統のある場所で迎えるのって結構大事なことなのかもしれません。これからプロポーズを考えてらっしゃる方は、そういった視点も考慮されるといいかもしれません。

なんて思った小説でした。

まぁ、結婚式を挙げた場所や初デートで行った場所は残ってるんでまだ大丈夫ですけどね!

 

文中に出てきた『ハケンアニメ!』が気になった方はこちらからどうぞ!

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