【読書感想】『テロリストの処方』将来起こるかもしれない物語

いやーいやいやいやいや…!
はっ、すみません。
あまりに衝撃的なラストの小説を読み終えたので取り乱してしまいました。
今日はこのまま感想を認めようと思います。
久坂部羊さん著の『テロリストの処方』です。 

テロリストの処方

テロリストの処方

 

 以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。

医療格差が生み出すテロの話

今よりちょっとだけ未来の日本の、医療業界が舞台となります。
国民皆保険が完全に焦げ付いてしまい、今の医療制度が立ち行かなくなった社会が描かれます。
医療費は一般人にはおいそれと支払えないくらいに値上がりし、そんな医療費を払うことのできる一部の富裕層患者を医者たちが奪い合うようになった結果、高級ホテルのような高サービスを提供する病院が立ち並ぶ一方で、一般の人は「はしか」で死んだり、妊婦が病院をたらい回しにされるようになります。
ちゃんとした医療が受けられる一部の「勝ち組患者」と、大多数の「負け組患者」が生まれ、一部の勝ち組患者を囲える「勝ち組医師」と、その他大勢の「負け組医師」という二種類の二極化が起こるのです。
主人公の「浜川」さんは、そんな社会で病院の勤務医をしていましたが、あるきっかけから医事評論家に転身することで、一応の「勝ち組」に所属しています。
浜川さんが最近気になってる医療系の大きなニュースが「勝ち組を標的とした連続テロ」です。
医療の二極化を逆手にとって私腹を肥やした医者や患者をターゲットにしたテロが発生し、犯行現場には「豚ニ死ヲ」と書かれた犯人からのメッセージが残されていたのです。

あまりあらすじが長くなってもいけないのでかいつまんで書きましたが、現行の医療制度が破綻して二極化が進んでいくプロセスが妙にリアルでゾワゾワするんです。
「ニュースなんかでその問題見た!」って「アレ」や「コレ」やが加速していった結果が作中に描かれる「医療格差」なんですね。
この、現在の問題と作中のファンタジーの地続き感がめっちゃリアルに感じられるんですよ。
「ひょっとして、ぼくらの老後くらいに世の中こうなってたりして…。」ってちょっと思っちゃうレベルなんです。

そんな設定の中でミステリーが描かれていきます

浜川さんは「狩野」という、医療格差に大ナタを振るおうと画策する「全日本医師機構」の気鋭の若き新総裁であり、医学生時代の同級生に「改革チームのブレーンになって欲しい」と頼まれます。
例のテログループから狩野に犯行声明が届いたのですが、「塙」という2人と同じ大学の同級生が犯人である可能性があるというのです。
塙と狩野は学生時代にちょっとした確執があり、今それが明るみになると狩野の医療改革にとってあまりいい影響を与えないのだそうです。
浜川さんには、塙が狩野の言うような人物だとはとても思えません。
しかし、狩野には「塙が犯人なのでは?」と思わせる根拠がいくつかあり、さらに当の本人は現在行方不明ときています。
医療業界で権力を持ちつつある狩野に刃向かうことが自分にとっていいことにならないとも理解している浜川さんは結局、塙氏の行方をさがすことにします。

もう少しだけあらすじ書かせてもらっていいですか?

塙の行方を探し始めるとの同時に、浜川さんのところに「小村」という、またしでも医大時代の同級生から手紙が届きます。
小村は成績は優秀だったのですが性格に難があり、幾つもの病院を転々としたのちにホームレスになったのだそうです。
手紙には「例の医療テロについて有益な情報を持っているのでこれを手土産に自分にも評論家の仕事を紹介してほしい」といった内容が書かれていました。
しかし、浜川さんが小村に会う前に、小村が寝ぐらとしていた場所でホームレスの遺体が発見されます。
そして警察は、なんと「遺体が塙である」と断定します。
かわりに小村が行方不明となるのでした。
そんな最中に起きる、次のテロ!…ってあたりから、この小説めっちゃめちゃに面白いんですよ!!
あとは一気読みです。
遺体で発見されたホームレスは小村なのか?塙なのか?
テロの犯人は誰なのか?
狩野の改革は実を結ぶのか!?
あーすごかったー。
でも、本当にすごいのは、ラストまで読んでも「やっぱこの医療格差、将来現実になるんじゃね?」という不安です。

実はそこがこの小説の1番怖いところです。