【読書感想】『夢も見ずに眠った』大切な人を思わずにはいられない

自分で言うのもなんですが夫婦仲良い方だと思うんです。

とてもありがたいことです。

でも、我が家の夫婦像が完璧なものかと言えばそうではなくて、お互いの性格やらバックボーンやら、親族との絡みやその他諸々が複雑怪奇に絡み合うのが現代社会ですよね。

なのである種、どこまでいってもよその夫婦が羨ましくもあるし、そもそも比較するものでもないだろうし、自分たちが幸せならそれで良いんだろうな、なんて思うわけなんです。

そんなことをつらつらと思いながら、出張先のホテルで1人で読んでちょっと寂しくなったのが絲山秋子さん著の小説『夢も見ずに眠った』です。

夢も見ずに眠った。

夢も見ずに眠った。

  • 作者:絲山秋子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: 単行本
 

 ぼくが物語にどっぷり浸かった中盤あたりまでのネタバレありであらすじ紹介しますので、以下よろしくお願いします。

あ、オチは書きませんよ?そこはぜひ読んでいただきたいです!

どこにでもありそうな背景の一組の男女が主人公。

この小説の主人公は「高之」と「沙和子」と言います。

2人は夫婦なんですね。

高之さんは、マイペースで独特な感性を持ってる印象です。沙和子さんはしっかり者なんだけどたまに感情的になることがあるようです。

2人が30代の半ばに、岡山に旅行に行くシーンから始まります。

というのが、この物語は、各章ごとに2人(もしくはどちらか1人)がどこかに旅行に行ってそこで見聞きしたり感じたことが綴られるのですが、時系列が行ったり来たりするんです。

なんか、2人のアルバムや日記みたいなものを、テキトーにめくってそこに書かれてたことを目にするような、そんな感じで読んでいく小説で、それがまた、脳内で時系列順に再構成して余白をこっちで補完していくことになって、そこにまた感情移入していく形式です。

で、この最初の岡山の旅が、最初は「これは一体なんの話なんだ?」って思わせるんですが、読後に振り返ってみると2人を象徴するエピソードになってるんですよ。

2人は初め、岡山県の倉敷市に旅行に行く予定だったのですが、高之さんが突如笠岡市にあるカブトガニ博物館に行きたくなるんです。

で、そんなつもりのなかった沙和子さんは突然の提案に腹を立て、倉敷の手前の岡山駅で新幹線を降りちゃうんです。

土地勘のない方のために西日本在住のぼくからご説明させていただきますと、2人が当初目的としていた倉敷市に対して、高之さんが行こうと言い出したカブトガニ博物館は広島寄りで、沙和子さんが降りた岡山駅は兵庫寄りなんです。

こうして別行動をとって、個別に観光を楽しみながらもだんだんと相手がどうしてるか気になりだし、「寂しいなあ」って気分が湧いてきた夕方合流して一緒に楽しく晩ご飯を食べるのが最初のお話なんですね。

そんな2人はどうやら大学時代の同級生なのだそうです。

99年に大学4年生ということで、就職大氷河期に就活を行いなんとか就職するものの、高之さんは最初の仕事をやめてしまいます。

その後、一人娘の沙和子さんの家に次男ということもあって高之さんは婿養子という形で結婚し転がり込み、派遣の仕事の従事します。

ところが、その直後に沙和子さんが北海道に転勤になります。

書き忘れましたが2人は熊谷在住です。

新婚ホヤホヤだというのに、高之さんは妻の実家で義理の両親との3人暮らしが始まるんです。

ほどなく高之さんは鬱を発症、無職になります。

心配しながらも北海道からでは何もできない自分の不甲斐なさを募らせる沙和子さんと、無職でありながら嫁の実家に住まわせてもらっていることが申し訳なくて仕方ない高之さん。

数年で東京に戻ってこれると聞いていた沙和子さんだったのですが、仕事も手を抜かない彼女は北海道で実績を買われ、帰れなくなっていきます。

そして2人は離婚してしまうんです。

ここからが切ない…!

ぜひ読んでいただきたいので詳しくは書きませんが、この、決して相手を嫌いになったわけでも気持ちが覚めてしまったわけでもないのに、相手を思うが故に離婚に踏み切る2人のエピソードが堪らないんです

めっちゃお互いに相手を想ってるんです。

でも、変なところで気持ちがすれ違う。

このじれったさ!

どんなに通信技術が発達しようが、人はすれ違うものなんですね。

だからこそ、言葉を重ねて重ねて重ねなければならないのかもしれません。

たとえ同じ話を聞かされても「それ、前も言ったよね?」とか「その話聞くの◯◯回めだよ」とか言わずに「へぇー!」って言う方が世界は平和だと思うのです。