凄い小説を読んでしまいました。
ぼくがこのブログの読書感想で「凄い」と書く時って「ページをめくる手を止める事ができなくなった」小説に出会った時なんです。
今回読んだのは、辻村深月さん著の『傲慢と善良』です。
以下、あらすじと本の構成紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。
婚約者が忽然と姿を消す
この小説は、婚活アプリで知り合い婚約した「架」と「真実」というカップルが主人公です。
架はイケメンのリア充でしたが、20代の頃に付き合ってた彼女に「まだ結婚は考えられない」と言ってたら振られ、振られてからその子のことが大好きだったことに気付き、30代の間婚活を続けるも、好きだった元カノを引きずってるせいで上手くいかず気がついたらもうすぐ40歳…というところで、真実さんと知り合います。
真実とも結婚の決め手がなく2年ほど付き合ったのですが、ストーカー被害に遭ったことを決め手に「彼女を守らなければ!」と結婚を決意します。
そんな真実さんが、ある日忽然と姿を消すんです。
慌てて警察に届け出た架でしたが、調べてもらった結果「事件性がない。自発的に姿を消した可能性がある。今のままでは警察としては動けない。」と言われてしまいます。
架は途方に暮れてしまいます。
真実は「ストーカーは、自分が群馬の実家にいた頃に知り合った人かもしれない」と言っていました。
他にどうすることもできない架は、群馬に通いながら、東京に出てきて自分と知り合う前に接点があった人と会いながら、手がかりを求めて細い細い糸を手繰っていくことになるのですが、そこで初めて真実の生い立ちやこれまでの人生について知ります。
真実は「毒親」と形容しても良いほど過保護な母親の加護、もしくは監視と言っても過言ではない環境の中で、母親の望む通りに「いい子」で育っていたのです。
真実は35歳でしたが、架が「初めて」の相手で、架はその時は別段気にしてなかったのですが、彼女の生い立ちを知ると、歪つというか、ある種グロテスクな様相を孕んでいることを思い知らされます。
彼女は一体どこにいるのか…?
傲慢と善良タイトルの意味
そんな物語の素晴らしいところが、タイトルなんですよ!
「あなたのためを思って…」と、親や既婚者の友人、その他諸々に言われる、もしくは言ってしまうアレやコレやをさして「傲慢と善良」と表現しているんです。
コレがもう、心当たりがありまくるというか、似たようなこと言われたことあるし、うっかり言ってしまったことがあるかもしれない。
相手を心配するっていうのは、ある種「自分は安全なところにいますから」というマウントで、相手を下に見てる節があるわけです。
相手を思いやってアドバイスするのも「自分は正しい」という前提からです。
こういう人は、自分は善意でやってると信じてます。
コレ、めっちゃ怖いですよね。
そんな真実を探す架の物語は、そんなエピソードが満載で、ある種ホラーじみて見えるんです。
テラスハウスに出演していた若い女性の方が自殺しましたよね。あの一件も「彼女を追い詰めた人たちは、自分たちは正義の行いをしてたと思ってる節がある」と聞きました。
そんなことに考えを巡らせながら、自分もいつ誰かに傲慢な善良を振りかざしてたかわかりません。
ぼくは「結婚なんてしたい人がすればいい」と思ってますが、それすら既婚者の余裕という傲慢かもしれない。そんなふうに考えました。
点数
他にも、ドキっとしてしまったのでことがあって、恋愛とかの話でうっかり相手に点数をつけてしまうことがあるじゃないですか。
それって大抵、本人のいないところで、当事者と当事者の関係者の気の置けない会話の中でなされますよね。
この「相手につける点数」とは、自分につけてる点数と合わせ鏡で「自分に釣り合うかどうか?」でつけられるというのです。
自分の点数が高ければ、相対的に相手の点数は下がるというのです。
これがめっちゃリアルなんです。
真実はどこにいるのか?
架は、真実を探しながら、傲慢と善良にまみれた彼女の生い立ちに触れ、世の中に満ちている傲慢と善良に気付き、自分も善良な傲慢を振りかざして生きてきたことを知ります。
お話は、読者が架と一緒に真実の最初の人物像を壊して再構築していき、新しい彼女の人物像が完成したところで突如、真実さん視点に代わります。
そして、驚きの展開になるのですが、コレはもう、是非読んで感想語り合いたい!
何この小説、すごい…!
辻村深月さんすごい!!
まだまだ「こういうこと、ありますよね!」と話題にしたい内容がてんこ盛りなんですが、ネタバレになってはいけないのでそろそろ終わろうと思います。
え?
ぼくは奥さんに何点つけてるか、ですか?
当然200点です。