【読書感想】『カササギ殺人事件』ミステリーの美味しいとこてんこ盛り小説でした

めっちゃエンターテイメントな推理小説を読みました。

アンソニー・ホロヴィッツさん著の小説『カササギ殺人事件』です。

あまりにワクワクしながら読んだのですが、この作品の魅力をお伝えするためには物語中盤、ちょうど下巻の冒頭にあたる部分に明かされるこの小説の「仕掛け」について語らないわけにはいかず、でもその仕掛けに触れた時の「え!?」って感じを今バラすのはもったいない気もします。

まずは上巻について、あらすじ紹介程度のネタバレありで作品を紹介させてくでさい。

カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)
 

 物語は1955年が舞台です。

とある村の貴族、サー・マグナス・パイの屋敷で家政婦のメアリが亡くなります。

鍵のかかったパイ屋敷で掃除機のコードに足を引っ掛けて階段からの転落死、というのが警察の結論なのですが、小さな村での大事件のうえ、尾ひれ背びれがついて数日前に口論してた息子が疑われ始めます。

この息子にはジョイという婚約者がいて、ジョイは彼の身の潔白を晴らすため、高名な探偵であるアティカス・ピュントに捜査の依頼に訪れます。

数々の難事件を解決に導いている伝説の名探偵のピュントでしたが、ちょうどその日、彼は脳腫瘍で余命幾ばくもないことを医者に告げられていました。

気が動転しているところにやってきた捜査の依頼を一度は断るのですが、その翌日、なんと事故が起こった屋敷の主人であるマグナス・パイが殺されたことが新聞で報じられます。

ピュントはこの事件を、自分の最後の案件にすることと決め、助手のジェイムズとパイ屋敷に向かうのでした…ってお話です。

閉塞感のある村でみんな怪しい

生前のメアリはお節介な性格で、小さな村のあらゆる人のどんなことにも首を突っ込むタチだったらしく、よく思われてない節がありました。

マグナスも親の遺産を受け継いだだけのボンボンで横柄なおじさんだったため、多くの村人から反感を持たれていました。

そんな村で、捜査線上に上がってくる住人たちはみんな怪しいんです。

何かを隠している神父

マグナスに絵をズタズタに引き裂かれた画家とその妻の女医

前科持ちの雑貨屋店主

ぞんざいに扱われていた庭師

先に生まれたというだけで全ての遺産を兄に奪われたマグナスの双子の妹

そして屋敷内で家族を亡くしながらも住み込みで働き続けていたメアリ。

そんな事件に挑む余命幾ばくもないどこまでも紳士な態度の名探偵と、身綺麗にしながらもどこか間の抜けた助手と、それからお腹の大きな警部も当然登場します。

下巻を開いてびっくり

と、ここで冒頭に書きました下巻冒頭の「え!?」に触れることにします。

すでに読む気になってらっしゃる方は以下は読まないようお願いします。

 

 


いいですか


上巻は、金田一少年の事件簿で言うところの「謎は全てとけた!」的なことをピュントが言ったところで終わるんです。

「え!?まだ折り返しなのに早くない?」って思うじゃないですか。

登場人物がみんな怪しいし、逸る気を持ちを抑えつつ、下巻のページを開きます。

すると、ピュントをはじめ上巻で登場したキャラが出てきません。

「あれれ?」と思いながら読み進めてみてびっくりしました。

下巻は、出版社で働くスーザンという編集者が、大人気の「アティカス・ピュントシリーズ」の最新作である「カササギ殺人事件」を著者のアラン・コンウェイから受け取り、原稿チェックをしていて「ラスト部分がごっそりない!」と気づいたことろから始まるのです。

そーなんですよ。

上巻のピュントの物語は、スーザンがチェックしてた原稿の内容だったというわけです。

そー言われたら、上巻の冒頭に、メタ的な視点のプロローグがあったり、さも「ピュントのこれまでの事件簿について知ってて当然」みたいな体で話が進んで行ってたんです。

そして、原稿の欠損部分をアランに確認しようとした矢先、編集長から彼が自殺したことを知らされます。

スーザンは残りの原稿を探しにアランの自宅へ訪れるんですが、そこで彼の自殺に疑問を持ち始めるんです。

ピュントの物語とスーザンの物語がリンクする

はじめは「おいおい!マグナス殺したの誰か早く教えてよ!?」と焦れながら読まされました。

しかし、これがすごい構造になっていまして、アランの自殺の真相のヒントが、今度はカササギ殺人事件の原稿の中に隠されてる構造になってるんですよ。

気難しい性格だったアランは、マグナスのように多くの人物に反感を買われていて、アラン殺害の動機がある人物が下巻にわんさか登場します。

そんな彼ら彼女らに似たキャラが、上巻のカササギ殺人事件原稿内に登場してるんです。

ピュントの物語を読み返しながら、スーザンの物語の結末に思いを馳せる。

そしてカササギ殺人事件のラストに、アランの死の真相が書かれている…!?

めちゃくちゃ面白い読書体験でした。

ピュントの事件簿だけでも充分面白いのに、それが丸々作中劇に使われてて、現実に起きてる事件を読み解くためのヒントになってて、2つの事件を行ったり来たりするんです。

この、ソーシャルディスタンスな、あまりに寒くなるのが駆け足な今年の秋の夜長のおともに、とっても楽しいエンターテイメントだと思います。

あなたも名探偵になってみませんか?