【読書感想】『明け方の若者たち』ぼくも昔は若者でしたよ

今日は読んでて苦しくなるけど、その苦しさを味わいたいっていうか、その苦しさが刺激でシュワシュワ来るっていうか、そういう炭酸水みたいな小説を読んだので感想を書きます。

カツセマサヒコさん著の小説『明け方の若者たち』です。

明け方の若者たち (幻冬舎単行本)

明け方の若者たち (幻冬舎単行本)

 

あれ?アマゾンの表示のされ方が変わりましたね?

本に巻かれている帯まで表示されている!

以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけくださいね。

物語は主人公の「僕」が大学4年になり、早々に就活を終えたところから始まります。

名の知れた出版社に内定が決まった「僕」は、たいして仲もよくなかった同級生が開催する「勝ち組会」という飲み会に呼ばれます。

くだらないなと思いつつ、勝ち組の美酒にもそそられて参加してみたものの、意識高い系のパリピトークに辟易してしまう「僕」でしたが、参加者の中に、自分と同じように心ここに在らずといった感じの女の子を見つけます。

「僕」にとって「彼女」は直球ど真ん中の好みのタイプで、今まで映画やなんやで散々馬鹿にしていた「一目惚れ」を経験してしまいます。

早々に帰ろうとしている「彼女」と、なんとか二言三言会話を交わすもしどろもどろで、なんとか連絡先を交換するものの「もっとうまく話ができれば…」って感じで、「彼女」を見送ってしょんぼりしていたところにメッセージが届くんですよ。

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」

って。

なにこの甘酸っぱい展開!?ってなるじゃないですか。

でも早々に宣告されるんですよ。

「沼のような5年間」というこの恋愛の期限を。

お察しの通りこの物語は「僕」と「彼女」が最終的に別れるということを前提に進んでいきます。

学生でラブラブだった2人が、就職し「こんなはずじゃなかった」って社会にもみくちゃにされながら次第に疎遠になり、やがて別れる。

そーいう話です。

『500日のサマー』って映画に似てるなって思いました。

それにしてもこの「彼女」、若干あざといというか、文化系のサブカル好き男子の「理想」のを体現しているような女の子です。

世間一般で流行ってる音楽ではなく自分が好きなジャンルをちゃんと持っててそればっかり聴いたり、推しの脚本家の演劇を観に行ったり、休日は部屋でゴロゴロするのが好きだったり、初デートの集合場所がヴィレッジバンガードで、どっちが先に相手を見つけられるか競争しようとしたり…あなたひょっとして女神様かなんかですか!?

こんな女の子が現れたら、そりゃ沼にハマってくわな!って感じです。

そんな「彼女」に愛されたくて釣り合いたくて、一生懸命頑張ったり見栄を張ったりする「僕」もまた、身に覚えがあるっていうか身につまされるっていうか…!

そして、意識高い系の話を我が事のように語る感じ…ぐはっ…ダメージが…半端ない!

「僕」は就活前に東日本大震災を経験するので、アラサーの方はドンピシャすぎるかもしれません。

ひょっとしたら致命傷を受けるかも!?

そんな物語です。

ただ、ぼくはこうも思いました。

「僕」は高い意識を持って就活を制して社会に出ていって、何者にもなれない事に足掻くんですが、それでも正社員でいられてるところがじつはぼくらには共有できない物語って感じがします。

ロスジェネと言われるぼくらは、ここに描かれている閉塞感すら、まだ肩書きがあるだけ、寄る辺があるだけ羨ましくまぶしく感じる部分があるんですよね。

もぉほんと「時代が悪かった」としか言いようがないことなんですが。

まぁそれでも、10代という多感な時期に90年代の漫画やアニメをリアルタイムで追えたりもしたので、そーいう部分が別の世代には羨ましかったりするんだろうな〜、結局ぼくらは隣の山を互いに無い物ねだりするんだろうな〜とも思いました。

なんにせよ、ぼくらは楽しかった思い出を胸に秘めてしんどい現実を一歩一歩踏みしめて生きていくしかなくて、そーいう意味ではぼくも「僕」もおんなじで、この物語の主人公もヒロインも名前がないってのは、ほんとニクい演出だなと思いました。