すごく面白いミステーリ小説を読みました。
まさにハラハラドキドキ、こんなにエンターテイメントとして楽しませてもらったのは久しぶりだなと思うくらい、特に後半は時間を忘れて読んでしまってたいへんでした。
知念実希人さん著の『硝子の塔の殺人』です。
ぼくはミステリーに限らず、面白そうだと思った小説を月に1、2冊たしなむ程度なんですが、それくらいのぼくにとっては、なんていうんでしょう?フルコースを食べさせてもらったような、遊園地に連れてってもらったような、アトラクションに揺られてきたような、有栖川有栖さんが帯に書かれた「まるで本格ミステリーのテーマパーク」ってのは読後「それな!」でした。
ちょっとトリッキーな構造で、そのあたりの説明を書かないとぼくの感じた楽しさが説明できないので、いっさいのネタバレ厳禁な方は以下お気をつけください。本当にお気をつけください。
物語は、全ての犯行を終え、探偵に捕まったあとの真犯人の主観から始まり、今回の事件を振り返るところから始まります。
とあるミステリーマニアの資産家が莫大な資金をかけて作った全面ガラスの館というか塔というか、そんな建物が舞台です。
そこに「重大な発表がある」と資産家に招待されたゲストたちが、思い思いに歓談してるシーンから始まります。
集まったのは、ナイスミドルなミステリー小説の大家、ぶっきらぼうな警視庁の刑事、少しヒステリックな霊能力者、オカルト雑誌の編集者、数々の難事件を解決に導いている美人名探偵、館の主の主治医。
そんな面々を主人に代わってもてなす執事にメイドに料理人。
そこで、第一の殺人が起きます。
被害者はこの館の主。
犯人である冒頭の人物が、持病による自然死に見立てることを計画するのですが、予期せぬ事情により、殺人と見抜かれてしまいます。
ここまで、いわゆる倒叙ミステリーかな?と思ったら、ちょっと事件が起きるんです。
犯人が焦っている間に、第二の殺人が起きます。
そして、死体のそばには、この地域で昔起きた未解決事件を思わせる謎のメッセージが残されているのでした。
自分が手をかけていないにもかかわず、2人目の死者が出てしまったことと、過去の事件の引用に完全に気が動転した犯人でしたが、ある妙案を思いつきます。
第二の殺人の犯人に自分の罪もなすりつけるため、同じくゲストの、最も初めに事件の真相に辿り着きそうな美人名探偵にワトソン役を志願するのです。
「犯人役がワトソン役!?面白いじゃん!」とか思ったりする一方で、ここまでなんかすごくベタな設定が多いじゃないですか。
そこまでミステリーファンでもないぼくでも「なんか見たことあるな」っていう展開や設定がてんこ盛りなんですが、このベタな展開が、後半メタなどんでん返しの伏線になっていて、その種明かしが始まったことからもぉ、どきどきワクワクが止まらないテーマパークに突入だったんですよ。
ミステリーマニアの大富豪に集められたゲストたちですから、作中でもミステリー小説の歴史について触れたりするシーンが何度も出てくるんです。
そんな中でも語られるのですが、もはやミステリーの新規軸を生み出すのは困難なんでしょうね。
これはミステリー界に限ったことではないし、もちろん批判でもなんでもなく、だからこそ既出のアイデアをいかに絡ませるかがミソで、そんなアクロバットを楽しませてもらえるのは読者冥利に尽きるなーと思うんです。
そーいう意味では「まだこんな変化球があったか!」っていう作品でした。
ただ、あまりに変化球すぎるのか、読む方によってはアラというか、歪みも気になるようで、そういった感想もネットで散見されます。
もっともだな〜、と思いつつそんな話も含めて友達とワイワイ語れたら楽しそうなお話でした。