【読書感想】『波に乗る』を読みました

はらだみずきさん著の小説『波に乗る』を読みました。

ちょっとねーこの作品、慌ただしく現代社会の荒波に揉まれてる人間からすると「ああ、いいな、こういうの…」みたいな、そんなことを思いながらどんどん作品の中に溺れていってしまう、そんな良い話でした。

主人公の文哉くんは、大学新卒で就職した会社がブラックで1ヶ月でやめてしまった矢先に知らない男の人から「あんたの親父、亡くなったぞ」と連絡をもらうんですね。

文哉くんのお父さんは、奥さんに逃げられた、趣味らしい趣味もなさそうな企業戦士で「あんたみたいな大人になりたくない!」とうっかり高校時代に言い放って以来何となくギクシャクしてしまい、大学時代も家に寄り付かずそのまんま、みたいな、そんな間柄だったというわけです。

そんなお父さんは、 文哉くんと疎遠になったあと、仕事を辞め、房総半島のとある田舎町で空き家を買って暮らしていました。

文哉くんと、 文哉くんのお姉さんは、お父さんの遺品を整理しながら、お父さんの晩年がひどく寂しく惨めなものだったのではないかと今更ながら思いを馳せるわけなのですが…ってお話なのですが、以下ちょっとだけネタバレしながら書いても良いですか?

実はお父さん、子育てがひと段落したことを期に、若い頃の夢を追って移住してたってわけなんですよね。

文哉くんたちが初めは寂れた田舎町と思っていた場所は、実は別荘地で、 お父さんは家主が不在時の別荘の管理を仕事としつつ、地元の人たちとも穏やかな人間関係を築いて、若い頃の趣味だったサーフィンを楽しんでたってことがわかっていくんです。

それは、男手ひとつで二児を育てつつ働いてた時に完全に封印していた「本当の自分」で、 育てられてた側の文哉くんはいっさい見ることのなかったお父さんの姿だったわけで、そんなお父さんの残像を、かつて「あんたみたいな大人になりたくない」と言った挙句ブラック企業に就職して辞めた文哉くんが追って行くというね。

もぉね、なんかこう、育児と仕事に追われて隙間時間に絵を描いてるぼくからするともーね、泣きたくなるようなお話で、なんでお父さん「これから」って時に死んじゃったの!って思っちゃうじゃないですか。

ちなみにお父さんの死因は心不全とのことで、ぼくも子育て終わったら、ながく自分のしたいことを楽しめるよう、今から健康には気をつけておきたいものです。

この作品、続編が出てるみたいなのでまた読もうと思いました。