【読書感想】『クオリティランド』痛快ディストピア冒険コメディでした

人類がAIに支配され、虐げられてるとも感じずヌクヌクと暮らしつつ、いつの間にか人間としての尊厳を奪われてるってディストピアものは今や世間に多くあるかと思いますが、こんな痛快でコメディで下ネタなお話はなかなかないのでは!?って思わせてくれた楽しい小説を読んだので感想を書こうと思います。

マルク=ウヴェ・クリングさん著、森内薫さん訳の『クオリティランド』です。

あ、最初にちょっと言わせてください。

マジで面白かったです。

以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけくださいね。

(クオリティランドがどんなディストピアなのかを描くために、前半かなりのページを割かれているので、ぼくが面白くなってきたところまであらすじを書いてしまってます。)

舞台は少し未来のおそらくドイツです。

「三つの危機」を乗り換えたその国は、名前を「クオリティランド」と改め、全国民は生まれた時の親の職業を名字とすることにしました。

人間の行動記録は全てAIによって収集され、アルゴリズムによって効率化されます。

友人、恋人、職業、欲しいものなどなんでもAIによってレコメンドされ、なんとなく「あれ欲しいな」と思った瞬間にドローンによってオンラインショップからその商品が手元に届く世界です。

配達に来たドローンによって開封の儀を動画に収められ、喜ぶ顔をSNSにアップするところまで自動でやってくれます。

人種や性別によって差別されない代わりに、国民は日々の行いによって細かく変動する「レベル」と言われる数値が刻まれます。

最高値が100で、9以下の一桁は「役立たず」のレッテルを貼られます。

この数値が高いほど様々な恩恵を受けられます。

信号が優先的に青になったり、ニュース番組の女性キャスターの服が透けたりします。

主人公の「ペーター・ジョブレス」は不要になった機械を廃棄するスクラップ店を営むレベル10の青年です。

普段から、なんとなく全てをAIに先回りされることにモヤモヤとしたものを感じながら生活しています。

そんな彼のところに、世界最大のオンラインショップ「ザ・ショップ」から小包が届きます。

中に入っていたのは、ピンク色のイルカ型バイブレーターでした。

一方世間では、現大統領の余命がAIによって正確に宣言されたため、新大統領を決めるための選挙の話題で盛り上がっていました。

注目の的となっているのは、クオリティランド初の人型アンドロイド「ジョン・オブ・アス」です。

彼は「AIは間違えない」という謳い文句で世間に賛否両論の嵐を巻き起こします。

イルカ型バイブレーターが欲しくないペーターは、カスタマーセンターに問い合わせるも「これはあなたに必要なものです」と梨の礫です。

我慢の限界を迎えた彼は、ついに仲間たちと行動を起こします。

実はペーターは、お店の地下に秘密の空間を作って、廃棄処分されるはずだった機械たちを住まわせていました。

スランプに陥った電子詩人、性欲を失ったセックスドロイド、高所恐怖症のドローン、PTSDを患った兵器メカ、口の悪いタブレット、方向音痴の自動走行タクシーと共に、ペーターはイルカ型バイブレーターをザ・ショップの社長に返品するための冒険に出るのでした。

Amazonのレコメンドとか、フェイスブックの友だちかも?とか、たまにドキッとすることあるじゃないですか?

それらが、行き着く先まで行ってしまったら?って恐怖を掻き立ててくる舞台設定のうえで、しょーもない下ネタをぶっ込んで軽妙さを出す感じが、なんとも言えない読み味で、とても面白かったです。

その一方で、これは書いてしまっていいと思うんですが、ペーターの冒険活劇は一応の大団円を迎えます。

その冒険の引き金となったのが、イルカ型のバイブレーターだったとするならば、これはやっぱりペーターにとって必要なものだったという、そういうことになりますよね?

そこにやはり、人知を超えた、シンギュラリティに対する不安を感じさせる、そんなお話だったのでした。