【読書感想】『香君』めっちゃファンタジーなのに現代社会がオーバーラップする

今日は『香君』という小説がものすごく面白かったのでこの本について語ります。

あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。

著者は、『精霊の守り人』や『鹿の王』で有名な上橋菜穂子さんなのですが、どちらも面白かったのですが、ぼくは個人的にさらに面白かったです。

舞台は上橋節全開のアジアンファンタジーな世界です。

「ウマール」という寒冷の痩せた土地に、人々が細々と作物を育てて生きてきた国があったのですが、その地に、香りで万象を知ることができる少女が、どんな地でも根付いて育つ不思議な稲を携えてやってくるんです。

「オアレマツナ」という異界からやってきたその娘は、奇跡の稲をウマールで育てて国を豊かにします。

彼女が持ってきた稲は「オアレ稲」と呼ばれるようになり、ウマールの人々はこの娘を「香君」と呼んで活神として崇めるようになります。

オアレ稲は丈夫で、年に何度も収穫できるのですが、オアレ稲を植えた土地は他の作物が育たなくなるなど謎も多い稲だったので、厳格に管理するよう香君は細かな取り決めを作りました。

時は流れ、ウマールは香君の威光とオアレ稲を使って周辺の国を属国として取り込みながら大帝国に発展していきます。

初代香君が亡くなると「香君の魂は次世代に引き継がれる」として、国内の少女の中から特に嗅覚の優れた娘を次期香君として祭り上げるシステムを帝国の官僚たちは作りました。

また、国が大きくなるに従って、より効率的にオアレ稲を収穫するために、初代香君の作った取り決めは、次第に形骸化していきました。

物語の主人公「アイシャ」は、ウマールの属国の1つ「西カンタル」の主の孫娘です。

アイシャの祖父は、どんなに領地が飢えても、餓死者が出てもオアレ稲の栽培を拒みました。

そのせいで領民の反感を買い、地位を追われ、アイシャも帝国の意に反した一族の一人として処刑されることになります。

今まさに処刑されそうになった瞬間、アイシャは自分に処刑を言い渡した相手が、何者かに毒を盛られていることを伝えます。

アイシャは、無臭であるはずのその毒の香りを感じ取ったのです。

現場に同席した、ウマール帝国官僚の「マシュウ」はその事実に驚き「この娘が自分の計画に必要だ」と一計を案じてアイシャの命を助けます。

実は、初代香君が残した記録にしか記載のない、オアレ稲を食う害虫「オオマヨ」が国内で発見されていたんです。

オオマヨがこのまま大量発生すれば、オアレ稲に全てを頼っているウマール帝国は一気に崩壊します。

マシュウに命を救われたアイシャは、このオオマヨ大発生の問題に取り組むことになります。

…という話なのです。

全てがわかってるわけではない、何かあったら制御のしようがないのに、オアレ稲に頼って国を豊かにし、さらに豊かにしようと効率を優先して管理をずさんにしていった結果問題が発生し、かといってオアレ稲のなかった時代にも戻れず、国家転覆の危機に瀕しているって、電力が逼迫してるけどエアコン止めたら命が危ない、というか地球環境自体危ないけど今の経済活動を止められない人類のことを考えずにはいられません。

オアレ稲は架空の産業ですが、ぼくらの毎日感じてる暑さは本物です。

香君は面白すぎて上下巻一気に読みましたが、ぼくらの生活が終わらないことを祈るばかりです。