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【読書感想】『未来職安』働かなくて良くてもぼくは働きたいかもしれない

「ベーシックインカム」って言葉があるじゃないですか。

生活に必要な本当に最低額を国が支給してくれるようになるってシステムで、もう10年以上話題が盛り上がったり盛り下がったりしている案件です。

曰く「国民の生活が安定する」であったり「単なるバラマキでしかない」であったり、喧々諤々の議論がなされてるイメージです。

今日これから感想を書こうと思っている柞刈湯葉さん著の小説『未来職安』は、今よりITの技術が発展し、ベーシックインカムが完全に世の中に浸透した未来のお話なんですよ。

未来職安

未来職安

 

 以下、あらすじ紹介程度のネタバレありで書きますのでお気をつけください。

働かなくても良くなると働くことが贅沢になる

作中では「切り詰めればギリギリやっていける」って額が国から支給される「生活基本金」という制度が世の中にあります。

この「ギリギリ」というのがミソで、ちょっといい生活がしたければ、家族を増やして世帯支給額を増やすか、働いて自分で稼ぐかしなければならないんですね。

でも、ITやロボットが発展してるがために、ほとんどの仕事が自動化され、人の仕事が残っていないのです。

その結果、働くことができるのはごく一部の学歴社会を勝ち抜いた「エリート」だけの特権になって「99%の消費者と1%の生産者」という構図が生まれてるんです。

そんな世界で、大学などには求人がこない怪しい仕事を斡旋する「職安」に務める女性「目黒」さんの主観で物語は展開されていきます。

目黒さんは「どうしても家族と暮らしたくない理由」があって、大学卒業後「県庁職員」という生産者になります。

交通課に配属された目黒さんは新人研修で、ほぼ全ての業務が機械化された県庁で人に残された仕事は「何かあった時責任を取って辞職すること」だと教わります。

「何か事故が起きた時に、誰かが目に見える形で責任を負わなければ人は納得しない」というのです。

そうして「何かあった時」のために出勤するだけの業務をこなす毎日を送っていた目黒さんでしたが、ある日担当する車体番号の車が事故を起こし、責任を負う形で目黒さんは仕事を失います。

目黒さんが原因でもなければ、被害者が捻挫する程度の怪我だったとしてもです。

途方にくれた目黒さんは、その後先輩のつてで物語の舞台となる、ヤクザ風の風貌で機械音痴の「大塚さん」が経営する「職安」を紹介してもらい、現在に至るというお話なんですね。

どのページを開いても皮肉がいっぱい

もうここまでで、すでに「もしもIT化が進み、ベーシックインカムが浸透したらあるかもしれない世の中」エピソード満載じゃないですか。

そんな話が所狭しと作中に散りばめられまくっているんです。

で、それがこう、ウィットに富んだ皮肉を帯びていて「ふふ」って思わず笑っちゃうんですね。

例えば、自分の漫画を読んでもらいたくて書店員を開く老人のエピソードとかあるんですが、目黒さんのその人に対しての印象が「若い頃にバリバリ仕事して、その収入で老後も悠々自適に趣味の仕事するなんて贅沢すぎる」だったりするんです。

こういう皮肉が楽しめたらおもしろいと感じる小説だろうし、鼻についたらドン引きするかもしれません。

終始、「設定」を楽しむお話だなーって思いました。

「仕事」について考える

当たり前にやってるので普段は考えませんが、自分の仕事についてもあれこれ振り返っちゃうお話です。

食いっぱぐれないために仕事してるはずなのに、人生の「働き盛り」と言われる時間の大部分は仕事に持っていかれてしまいます。

じゃあ、近代社会は嫌な時代なのかと言われれば「生きるため」に生きてた中世以前に比べればよっぽど幸せな気もします。

どうせ働くなら「やりがいを感じられる方が良いな」と思っていたら、行き過ぎると「やりがいの搾取だ」と言われたりもします。

基本的な生活が担保されると「もうちょっと良い暮らしがしたいからもっとお金欲しいな」なんて欲が出てきたりもします。

きっと人の数だけ仕事に対する価値観ってあるんでしょうね。

そんな世の中で毎週「月曜の朝」を全く憂鬱に感じることなく迎えられるぼくは、幸せ者なのだろうな、と心から思います。

柞刈湯葉さんって作家さんは設定の上手さが本当にすごくて「ずっと工事している横浜駅がついに自己増殖を始めた世界」っていう『横浜駅SF』もほんとおすすめです。

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