【読書感想】『横浜駅SF』あの建物、ずっと工事してるよね…の果て

こんにちは、りとです!

皆さんのお住まいの地域には、ずっと工事している建物とかありますか?

そして、そんな建物を見ながら「いつか飛びだって宇宙ステーションになったりしないかな?」なんて妄想を掻き立てたことはありませんか?

え?ある?じゃあこの『横浜駅SF』って小説を今日はお勧めしますよ!(ネタバレは無しです)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

 

 本州の99%が横浜駅!

ぼくは裏表紙に書かれたあらすじを読んで「ここまでいかれることは珍しい!」ってくらいガッツリ心を掴まれてしまいました。

今回は珍しくそのまま引用してみようと思います。

改築工事を繰り返す<横浜駅>が、ついに自己増殖を開始。それから数百年ーJR北日本・JR福岡2社が独自技術で防衛戦を続けるものの、日本は本州の99%が横浜駅化した。

脳に埋め込まれたSuikaで人間が管理されるエキナカ社会。その外側で暮らす非Suika住民のヒロトは、駅への反逆で追放された男から『18きっぷ』と、ある使命を託された。

果たして、横浜駅には何があるのか。人類の未来を懸けた、横浜駅構内5日間400キロの旅がはじまるー。

如何ですか?

自己増殖した横浜駅に本州はほぼ飲み込まれてしまい、九州と北海道がそれぞれ関門海峡と津軽海峡で防衛線を張って頑張っている。そして瀬戸大橋を突破された四国は無法地帯化…!

誰もが一度は思う「あの建物、ずっと工事してるな…」を見事にSF化してますよね!

人類VS横浜駅…?

作中、横浜駅は人間に危害を加えてはきません。

エキナカの治安を守る「自動改札」という二足歩行ロボが登場するのですが、彼らの任務は、非Suika民と、暴力行為・器物破損を行ったSuika住民を横浜駅から強制退去させることのみなんです。

しかし、本州の99%が横浜駅化する前に、どうやら人類は世界大戦をやったみたいで、駅の外では本当に厳しい環境を強いられ、ごく一部の集落(横浜駅からの廃棄物が投棄される場所)以外は、人が住めない世界になってしまっています。

エキナカでは自己増殖する横浜駅が、人間が生きていくために必要なものも自動生成します。そういった湧き水みたいな場所を発見し独占したSuika住民は大きな権限を持つことになります。

身分制度があるエキナカで生きていくか、少ない資源を奪い合う北斗の拳みたいな暴力が支配する駅の外の世界で生きていくかの二択。

横浜駅はただ増殖しようとしているだけなんですね。

そんな環境の中で、人間たちが勝手に新しいルールのもとで、虐げたり虐げられたりしてる、というのがこの物語のものすごく「薄ら寒い」部分です。

どんな環境でも、優劣つけたがる感じ、そして大きなハコモノをつくりたい欲求…人間の業なんですかねぇ…。

それでも「発展し続ける街」は魅力ですよね

とはいいながら「洗練された完成形」にはじめからなってる建物も魅力的である一方で、ずっと「改修し続ける商業施設」もそれはそれで魅力的ですよね。

最初の意図から逸脱していく感じが、まるで生き物のようで面白いです。

まるで、本当に自己増殖をしているかのような。

そんな建物がいくつも立ち並んだりすると、次第に混沌とし始めて、なんとも言えない猥雑な景色ができあがりますよね。平たく言えば「ごちゃごちゃした感じ」とでも言えましょうか。

語弊を恐れず言えば「ずっと未完成」を謳うディズニーリゾートにだって、似た魅力があるように思います。

ああいう景色を「面白いな」と感じる自分も確かにいて、そういった感覚を下敷きにして、この物語をより魅力的に感じさせているのかもな、と思いました。

ぼくのようにあらすじでヤラれた方は、ぜひ手にとっていただきたいです!