【読書感想】『なれのはて』

最近『なれのはて』という小説を読んでいました。

以下あらすじ紹介程度のネタバレがあります。

テレビ局で働く守谷さんという男性が主人公なのですが、物語冒頭、何か社内での問題がきっかけで休職→復帰後イベント事業部へ異動というシーンから始まります。

イベント事業部は、若手の中には初めから希望する人もいる部署だけど、長年報道部にいた守谷さんからしてみると左遷のようです。

守谷さんはそこで、吾妻さんという年下の先輩の下につくことになります。

吾妻さんは、ちょっとエキセントリックな身なりの変わった女性なのですが、身につけているものは大好きだった祖母の遺品らしく、その遺品の中にあった「一枚の絵」を使った展覧会を実施したいと考えていました。

しかし、その絵の出自が全く分からないため、著作権の関係から展覧会ができません。

手掛かりは絵に書かれた「イサム・イノマタ」というサインのみ。

そこで守谷さんの元・記者としての血が疼きます。

調べていくうちに「イサム・イノマタ」が秋田で戦前・戦後に成り上がった名家の2代目の弟であることがわかります。

ところが、2代目が自宅の火事に巻き込まれて焼死した直後に行方不明になっているというのです。

現地で聞き取りを進めていくのですが、猪俣家は戦中・戦後に町に繁栄をもたらした立派な家であると同時に、地域の各界に影響力があることから逆らうことはタブーとされてて誰も詳しく語ってくれません。

そこで守谷さんたちは、現社長である3代目に接触を図ります。

すると3代目は、吾妻さんの絵を「1000万で譲ってくれ」と言います。

吾妻さんがその申し出を断った直後、吾妻さんの自宅に空き巣が入ります。

てな感じで始まっていくのですが、これがものすごく面白いのです。

猪俣家の戦中・戦後の物語が紐解かれながら、守谷さんの記者としての矜持、吾妻さんの手元にイサム・イノマタの絵が辿り着くまでのエピソードが複雑に絡み、登場人物の多さからぼくは何度も行ったり来たりしながらも続きが気になって読んでしまいます。

そして、この本の表紙ですよ。

読む前はホラーかな?って思うようなデザインですが、読み終わってから改めてこの表紙を見ると、物語の内容を見事に1枚の絵で表現していて「すげぇ!」ってなります。

骨太のミステリでかつ大河ドラマのような群像劇で、これ書いた加藤シゲアキさんって今まで読んだことなかったけど、さぞ熟練の作家さんなんだろうなぁって思ったら、NEWSのメンバーで本業はアイドルなんですね。

芸能関係に疎くて本当に申し訳ありません。

ファンの方にこんなこと書いてること気づかれたら大説教を喰らいそうです。

でも、芸能界で働く人って本当に多才な人が多いですね。

1日の時間はみんな等しく24時間のはずなのに、と思うと、ぼくも自分にできることを頑張らないとな、とか思ったりもしたのでした。