『東京都同情塔』を読みました

何かと話題になっていた九段理江さん著の小説『東京都同情塔』を読みました。

この作品の面白さは、芥川賞受賞後のインタビューとかで語ってらっしゃる著者さんの思惑通りに賛否両論が沸き起こった(ている)ところだなーと思いました。

舞台は、没になったザハ・ハディドさん設計の新国立競技場が建設され、そこで東京五輪が開催された後の日本です。

主人公である女性建築家の牧名沙羅さんが、新宿御苑に新たに建設されることになった巨大刑務塔の設計コンペに挑むというシーンから始まります。

この刑務塔は、従来の刑務所とは違い、犯罪を犯した人は犯罪を犯すに至った外的な要因があって、そんな状況には誰しも陥る可能性があるわけだから、一概に罰を与えるのではなく、心穏やかに自分と向き合う環境を与えられるべきだというわけで、高級ホテルみたいな非常にラグジュアリーな環境になるというので。

税金でそんなものを作るのか!みたいな声も当然ある中、牧名さんは、建設予定地がザハ氏の新国立競技場も建っている新宿御苑なのだから、ザハ氏に対する自分のアンサーであるべきだと考えます。

牧名さんはザハ氏を信奉している様子で、それは牧名さんが女性でありながら仕事で成功を収めつつも、もうすぐ40歳なのに結婚もしてない行き遅れた女という風に自己理解していることとも関連している様子です。

そんな感じで、物語は終始顔の見えない世間の声みたいなのが蠢いていて、そこに昨今の生成AIの発する言葉なんかも絡んできて、ザハ氏の国立競技場は建たなかったけどエグいくらい今の日本を風刺していて、すごーく面白いなぁ、と感じたお話でした。