ぼくはAmazonのプライム会員です。
今更ぼくが詳しく書く必要はないくらい、このプライム会員という制度は使えば使うほどお得感が増していく魅力的なものなのですが、ぼくもいい歳のサラリーマンなので1人年額3900円でこれだけのサービスしようと思ったら相当な企業努力で、その企業努力が徹底した人件費の管理から生まれてるだろうことは承知しております。
以前『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』という、著者ご本人が身分を隠してAmazonの物流センターで働いた体験記を読んだことがあって、そこで働く派遣の方々の生活を読んで戦慄したことがあるのですが、今日感想を書く本はこの本ではありません。
ただ、予備知識としてこの本の内容を知ってたからこそ、ぼくはものすごい勢いで物語の内容に浸かれた部分もあるのでさらっと触れてみました。
某破滅の言葉を名乗る犯人がネット通販最大手の「あの会社」にテロを仕掛ける物語
今日読書感想を書くのは、楡周平さん著の小説「バルス」です。
今日はぼくが読む手が止まらなくなったところまでのあらすじを書きますので、ネタバレ厳禁の方はお気をつけください。でも、すごく面白いので核心には触れません。
「バルス」って、ラピュタの「バルス」です。
「テロの話だ」っていうのでてっきり「サーバをダウンさせるサイバーテロかな?」と思ったのですが、違いました。
主人公の「百瀬陽一」君は名前を聞いたら誰でも知ってる有名私立大学の4年生です。物語は、彼が就活に失敗したところから始まります。
失敗したと言っても、いわゆる大手企業にしか最初から目がいっていない陽一くん。
初めは「感じ悪いなこの主人公」と思うのですが、その裏には「大手企業に就職させれば子育て成功」と信じて疑わない親の期待があることも語られます。(実は陽一君の成長もこの話の大きな魅力の1つでした)
大手企業で軒並み「不採用」となった陽一君は、中小企業には目もくれず、お母さんの勧めもあって早々に「1年就職浪人」という選択をし、「少しでも学費の足しに」と派遣で働くことにします。
陽一君の派遣先は「スロット」というネット通販最大手の物流センターでした。
ここで優秀な働きをした陽一君は、ある時センター長に「来年4月から正社員にならないか?」と誘われます。
スロットは世界に名だたる大企業です。その会社の社員になれる。大喜びの陽一君は「はい」と即答します。
しかし、陽一君が大学卒業を目前に控え「そろそろ正式に採用の文書がもらえる頃なんじゃね?」とソワソワしていた矢先、声をかけてくれたセンター長がクビになり、新しいセンター長に変わるのです。
当然、前のセンター長との口約束なんて次のセンター長に引き継がれることもなく、採用の話は突然なかったことになります。
陽一君は偶然高校時代の同級生とばったり出くわします。
聞けば彼もスロットの別の配送センターで働いていたというのです。
陽一くんは書籍部門だったのですが、彼は飲料水など重たいものを扱うセンターで、そこで頑張りすぎた結果腰を痛め、労災もおりず、仕事もできなくなったというのです。
缶チューハイをちびちびしながら互いにスロットへの恨みを語る飲み会を開く二人。
話は「どうやったらスロットに復讐できるか」という話題になります。
陽一君は「スロットが当日や翌日配送ができるのは荷物の検査をしていないからだから、そこを逆手にとって、花火か何かと同じ箱に時限式の発火装置を入れてもバレない。そしたら配送中に荷物が炎上。1度でもそんな事故が起きればスロットの信用はガタ落ちだ。」といった空想話をしました。
その数日後、陽一君が語った通りのテロが起きるのです。
犯人は「バルス」と名乗りマスコミに犯行声明を出します。
内容は、非正規雇用の改善を訴えるものでした。
バルスの声に、政治は、社会は、ネットはどんな反応を示すのか?
そして陽一君は何を思うのか?
非正規雇用前提の社会はぼくらがつくっている?
ここまでの話の流れでお分かりかと思いますが「スロット」はAmazonをモデルにした架空の会社としか思えない設定の会社です。
物語の中で、スロットがいかに非正規の派遣社員を搾取しているか、そして配送業者にどれだけ無理を強いているかが描かれます。
また、スロットは海外の企業なので、いくら日本人の派遣社員を使って儲けようが、日本には税金は支払われない、つまり日本人に還元されない仕組みについても語られます。
そしてたとえ正社員になっても、徹底した成果主義で業績悪ければすぐクビを切られる事実も描かれます。
じゃあなぜそんな会社がなぜシェアの伸ばし続けているかといえば、顧客が利用するからであり、一度体験した「便利で安い」を今さら顧客は手放せないからだというのです。
我が身を振り返ってみても、先にご紹介した潜入ルポを読んで「こりゃ送料とか多少の値上げもやむを得ないなぁ」と思いつつも「値上げせずに使わせていただけるならありがたく使わせていただきます」というのが本音です。
この本音をチクチクついてくる内容なんです。
そして、このチクチクから早く解放されたくて「最後どうなるのよ!?」と読む手が止まらなくなるのです。
現代社会の暗部が次々に…
バルスのテロは物語中さらに続き、日本の流通は完全に麻痺してしまう展開になります。
物語は、そんな社会で、マスコミに誘導される一般の人々や、このテロを使って政権交代を目論む政治家など、いろんな現代社会の皮肉がクールに描かれます。
最後には「現代社会の膿をとりあえず並べてみましたっ!」みたいな感じの展開になります。
本当に、一気読みさせられました。
そして、色々考えされられました。今もグルグルです。
でもやっぱりぼくはAmazonを使ってしまうでしょう。
ぼくだって、正社員とはいえ一馬力で妻と3人の子どもを養ってる身です。ちょっとでも安くものが買えるならその方がいい。
しかし、それが巡り巡って日本をやせ細らせてしまうことになるのなら…?
悩む!!
とりあえず、奥さんに頼まれた洗剤をポチッときます。