【読書感想】『新宿の猫』2人だけの物語が始まって終わるまで

今日はタイトルと表紙でやられてしまった小説の感想を書こうと思います。

ドリアン助川さん著の『新宿の猫』です。

あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。

この表紙のイラストに一目惚れしてしまいました 

新宿の猫

新宿の猫

 

「闇を抱えた女の子が雑多な都会の中を飄々と生きていく話に違いない!」

って思っちゃったんです。

ほぼ正解でした。

綾波レイっぽい女の子がストライクゾーンなあなたにオススメです。

文体が柔らかいので、割と短時間で読めるところもオススメポイントです!

舞台はバブルの頃の新宿ゴールデン街

主人公の「山ちゃん」は、何か表現する仕事で身を立てたいと思いながらも、色弱のせいで第一志望だった出版系の企業に応募すらできず、大学卒業後バイトをしていたところを「永沢さん」というバラエティ番組のプロデューサーに拾われ、構成作家の卵として働いています。

一時期は拾ってもらった恩とテレビ業界で働ける興奮から頑張っていたものの、自分のしたいことがバラエティの世界にないことに気がつき、人生に迷っていたある日「花梨花」というゴールデン街の寂れた居酒屋に何気なく入ります。

その店は、近くにたくさんの野良猫が住み着いていて、その猫たちのイラスト入りの家系図が店内に貼られていて、「次に店の窓を通過する猫はどの猫か」を賭けて常連客が遊ぶ「猫じゃん」というゲームが流行っていました。

この猫の家系図を描いたのが、この店でバイトをしている「夢ちゃん」と呼ばれている女の子です。

夢ちゃんは、全ての野良猫たちの名付け親でもありました。

また、この家系図には、最近は姿を表すことがなくなった猫も描かれていて「この辺りの猫の歴史」を表しているものになってました。

この家系図と猫じゃん、そして何より不思議な雰囲気の夢ちゃんに興味を持った山ちゃんは、その日から花梨花の常連になります。

そして他の常連さんとも顔見知りになり、猫じゃんにも参加し、次第に夢ちゃんとも仲良くなっていきます。

歳が近いこともあり、次第に山ちゃんに心を許すようになっていく夢ちゃん。

やがて2人は「ある秘密」を共有することになります。

2人の関係が、切ない…!

人生に行き詰まってる山ちゃんにとって、夢ちゃんは「救い」のような存在として描かれます。

夢ちゃんとの出会いによって、活力をもらい、現実に立ち向かえるようになって行きます。

夢ちゃんも、どうやら人に言えないような秘密を持っているのですが、次第に山ちゃんに打ち解けていくことで「人間らしさ」が表に出てくるようになって行きます。

「この2人が幸せになって欲しい」って心の中で願いながら読み進めていくことになります。

ですが…

もぉね、これ以上は語りませんが、ラスト近くの「夢ちゃん、これで良かったんだよ」っていう山ちゃんのセリフがもぉ…せ…っ、切なくて…!!!

ぜひ読んでいただきたい!!!

昭和の「すれ違い」

ぼくにとってバブルは「子どもの頃テレビで見たもの」です。

なので、この物語の世界観をどれほど正確に脳内で再現できてるかわかりませんが、ギリギリ家の固定電話で「わ…っ、ワタクシりとと申しますが花子さんはご在宅ですか!?」を経験してます。

「携帯電話のなかった頃」です。

山ちゃんと夢ちゃんは、紙に書いた手書きの文でコミュニケーションをとるんです。

携帯電話に比べると、とてつもなく手間と時間のかかるコミュニケーションで、少しずつ少しずつ距離を縮めていくんです。

この、何者でもない2人が、夜の新宿ゴールデン街で、誰にも知られることなく誰も巻き込むことなく2人だけの物語を、紙に綴った文章で紡いでいく様は、どうしようもなく美しく感じられました。

平成の「贅沢」

不景気とか閉塞感とか、散々なこと言われ続けた平成が終わろうとしてます。

でも「じゃあ昭和の方が良いのか?」って言われると、スマート家電もフリーズしないPCもスマホも映画のような画面で遊べるゲームもない時代は「NO!」でして、アナログなものっていうのは「気持ちに余裕がある時に楽しむ程度でいいな」と思ってしまうぼくです。

不自由な時代に懸命に生きる2人の物語を尊く感じてしまうぼくも身勝手だな、と思ったりしながら、物語の世界にどっぷり浸かってしまったぼくでした。

それにしても、この表紙ホント素敵!