『罪の声』で度肝を抜かれて、以後新作が出るたびに読んでいる塩田武士さんの『朱色の化身』を読み終えたので、今日は感想を書きます。
今作も凄かったです。
以下あらすじ紹介程度、内容に触れますのでお気をつけください。
序章では、昭和31年に福井県の芦原温泉で実際に起こった大火事が舞台となり、戦後から少しずつ復興していた矢先に全てを失う温泉街の人々の物語が次々とオムニバス形式で書かれます。
「これは一体どんな展開になるんだろう?」と思って読み進めていくと「序章」がおわり「第一部」が始まるのですが、今度はいろんな人のインタビューを文字起こしした文章が、これまたオムニバス形式で次々と書かれていきます。
はじめは何の話なのかわからないのですが、読んでいくうちに「大路亨」という40代のフリーライターが、父親の依頼で「辻珠緒」という女性を探して関係者を回っているってことが見えてきます。
珠緒さんは、大手銀行からゲーム会社に転職し、ヒット作を打ち出した天才ゲームクリエイターで、大路さんも一度インタビューをしたことがある女性です。
そんな珠緒さんが、現在失踪中ということのようなのです。
ここで「?」なのが「序章の大火事は一体なんの伏線なのだろう」ということです。
第一部でインタビューを受けている人たちは、序章の大火事とは無関係ぽくて関連性が見えません。
ただ、珠緒さんの出身は芦原温泉ぽいのですが、それにしては序章の描写が丁寧でボリューミーです。
そんなインタビューを次々と読んでいるうちにいつの間にか「第一部」が終わり「第二部」がはじまるのですが、ここでやっと大路亨さんを俯瞰で描く物語が始まり、大路さんがどこの誰で、どうして珠緒さんを追うことになったのかがわかります。
大路さんのお父さんによると、亡くなった大路さんのお婆さんが、60年前に振興所に依頼してまで探していた女性がいたとのことで、その女性の子どもが辻珠緒なのではないか?と大路さんのインタビュー記事を読んで思ったのだというのです。
大路さんは、一度は新聞社に就職しながらもメディアの在り方に疑問を抱いてフリーライターに転身し、現在も「バスればなんでもいい」報道のあり方に疑問を感じている人です。なので、現在のマスコミや情報メディアについての、なんというか皮肉というか至るところに感じます。
お父さんも記者としてデスクまで上り詰めががらも現場で取材がしてくて転身した過去がありますが、現在は癌を宣告されています。
珠緒さんは焼け野原になった地元を離れ、男女雇用機会均等法が施行された社会に身一つで飛び込んだ世代です。
お分かりいただけるでしょうか?かなり読み応えのある骨太の社会派小説でした。
すごく面白かった!