【読書感想】『街とその不確かな壁』

今日は村上春樹さん著の小説『街とその不確かな壁』を読んだ感想を書きます。

長くて複雑なお話なのに「めっちゃスルスル読めてしまった!」っていう不思議な体験をしてしまいました。これはとても楽しい体験でした。

そのお話を書くためにあらすじを書きますので、一切の情報を遮断しておきたい方は以下は読まないでください。絶対に読まないでください。

逆に「村上春樹ってブルータスとかで最近よく見かけるなぁ、どんな小説書いたの?」って方はお付き合いください。

時間や場所があちこち飛びまくるお話なので、時系列で物語を書くと、主人公である「私」が高校時代にピュアな恋愛をするものの、相手と突然連絡が取れなくなり、その喪失感から立ち直れないまま数十年を過ごしておじさんになったある日、突然異世界に迷い込んでしまい、そこで高校時代の彼女と瓜二つの少女と出会い、その少女が働く図書館で仕事を共にするんだけど、全く意図せず突然現実世界に戻されてしまい、全てが嫌になってしまった主人公は長年勤めた仕事も辞めてニートになるんだけど、「このままじゃいかん」と地方の小さな街で館長を募集している図書館を見つけて移住して就職してみると、そこでたくさんの摩訶不思議な体験をすることになる、って話です。

これだけ濃厚なエピソードを一冊の本で語り、なのにどの話も薄っぺらく感じることなく、それでいて読みやすいということがぼくは衝撃で、全部読み終えた頃には、ぼくは全3巻くらいの長編を読んだような気分になりました。

でも、実際には1冊しか読んでなくて、その時間と空間が捻じ曲がった感じが物語の中ともリンクしてしまったようで、これまたなんだか不思議な気分です。

そして、10代男子の性欲をこんなに文学的に書けるものなのか!という驚きと、最終的には主人公の内面に帰結するあたりは、今回も村上春樹節全開だなーと思いました。