『彼女が言わなかったすべてのこと』を読みました

またしてもむちゃくちゃ刺さる小説を読みました。

桜庭一樹さん著の小説『彼女が言わなかったすべてのこと』です。

以下、ネタバレにならないよう感想を書きます。

主人公の「小林波間」さんが、街中をフラフラと歩いていると、通り魔無差別殺傷事件に出くわします。

目の前で綺麗な女の子が刺されるところを呆然と見ていた波間さんは、その場で偶然、大学時代の同級生の「中川」くんと再開します。

LINEで連絡先を交換し、家に帰り、事件のニュースを追ってみると犯人は「幸せそうな女を殺したかった」と供述していました。

波間さんは一瞬犯人と目があってたんですが標的にされなかったのですが、実は彼女は乳癌の投薬治療中なんですよ。

で、薬の副作用で以前のように頭が回らず、髪の毛が抜けたのでウィッグを被って街中をフラフラ歩いているところだったのです。

対して刺された女性は、動画配信サービスでそこそこ有名な女の子で、普段の派手な生活ぶりの動画から、被害に遭ったのに「ざまぁ」みたいに叩かれてしまいます。

波間さんは、中川くんと会う約束をします。

しかし、待ち合わせ場所に行っても中川くんはおらず、でもLINEで連絡をとってみると中川くんも来ているといい、話を整理するうちに、中川くんは同じ東京の並行世界にいることがわかります。

なぜか通り魔事件の際に一瞬だけ両方の世界がつながったみたいなのです。

波間さんの暮らす東京では、スカイツリーは赤色で、アサヒビールは「イカビル」と呼ばれていて、中川くんに「シュタインズゲートみたいだ!」と言われても「それって何?」という状況なんです。

それ以後も、2人はLINEで頻繁に通話しながら、時にはそれぞれの世界線で同じ場所に行ってみて違いを楽しんだりという交流をしていきます。

波間さんの世界線には「恋々」という名前の大人気女性シンガーがいて、彼女が担当するオールナイトニッポンをLINE通話越しに2人で聞いたりします。

中川くんは自分の世界線ではサラリーマンなのだけど、波間さんの世界線では人気の漫画家だったりして、波間さんは中川くんの世界線での自分が気になったりもします。

そうこうしていくうちに、中川くんの世界線では新型コロナウィルスという感染症が流行り始め、ライン越しに聞くパンデミックの話は波間さんにとっては物語のなかのディストピアみたいで、自分は自分で闘病中で…といった感じで物語は展開していきます。

この小説は、波間さんにとって、これまで当たり前だった価値観がどんどん崩れていって、そんな状況を波間さんが冷静に考察する様子を読みながら、ぼくにとっての当たり前とか常識を問わずにはいられない物語だなと思いました。

自分が普通だと思ってることがマイノリティかもしれない、発言すると誰かを攻撃するかもしれない。と考える波間さんの様子は、書いてみたけど公開せずにいる、このブログの下書き記事を思い出させました。

「閉塞感」なんて言葉をぼくが初めて見聞きしたのはもう10数年前なんですが、その閉塞感は、年々大きくなってってる気がしますね。