【読書感想】『ユーチューバー』淡々とした物語に引き込まれた

村上龍さん著の小説『ユーチューバー』を読みました。

不思議な魅力に引き込まれる小説でした。

以下少しだけあらすじを書きます。

親族の経営するお茶屋に縁故で就職して働いていたものの、周囲から七光で働いていることに陰口を叩かれていることに嫌気がさした自称「世界一モテない男」の「私」は、会社を辞め、ユーチューバーになります。

意気揚々と作成した、ゼレンスキー大統領の悪口を言う動画の再生回数がさっぱり伸びなかった「私」は、起死回生を図って「矢崎健介」という日本を代表する70代の大御所小説家に出演依頼をします。

矢崎さんは出演を承諾し「女性論」と銘打って、これまでの自身の女性遍歴を語りはじめます。

というお話なのですが、読んでて「すごいな」と思ったのが、主な登場人物が、「私」と矢崎さん、そして矢崎さんの恋人のような存在で「私」の表現を借りれば「30代か40代か50代の女性」の3人で、舞台は「私」が動画を撮影するために使っている部屋と、矢崎さんが「30代か40代か50代の女性」と会うときに使っているホテルの一室かなんです。

この少ない構成で、懇々と内面の世界に潜っていく感じが、夜のシーンや矢崎さんの思い出を語るシーンも多いことと相まって、ズブズブとこちらも深海に沈んでいくような、いや、本当に深海に沈んだことはないのですが、そんな錯覚を起こさせる不思議なお話でした。