小学生の頃、ぼくはばーちゃんの寝室で寝てました。両親は9時に寝させたかったようですが、どうしても見たい番組がある時に「内緒だよ」とテレビをつけっぱなしにしてくれてました。(いま思えば両親にはバレてたことでしょう)
そうやって見てた番組の中でトラウマってほどでもないのですが、寝つきが悪くなってしまった番組がいくつかありました。
番組改変期なんかにやる特番の類だっと思うのですが、中でもノストラダムスの予言系、宇宙人系、日本海側の行方不明事件関連、グリコ・森永事件関連、なんてのが強烈に印象に残ってます。
ノストラダムスと宇宙人は若干SFですが、日本海側の行方不明(これは小泉総理の時に北朝鮮の拉致事件だとわかりました)とグリコ・森永事件は、実際に起きた事件だけにものすごく怖かったんです。
グリコ・森永事件は、「かい人21面相」と名乗る犯人グループが大手企業数社を脅迫し、いまでも未解決な日本で最初の劇場型犯罪として有名ですよね。
「キツネ目の男」といわれる手配書の映像とかめっちゃ怖かったですが、個人的に最も衝撃的だったのが脅迫に使われた犯人からの音声テープに、子どもの声が使われてたことでした。自分と同じような子どもが抑揚を欠いた声で犯行文を読んでいる音声をテレビで聞いた時のショックといいますか恐怖といいますか、ものすごいものでした。
年明けからずっと読んでた「罪の声」という小説はこの「グリコ・森永事件」の子どもの声がテーマの物語なんです。
主人公、曽根俊也さんは、冒頭、死んだ父の遺品の中からラベルの貼られていないカセットテープを見つけます。何気なく再生してみると、31年前に世間を賑わわせ、犯人が捕まっていない「ギンガ・萬堂事件(フィクションなので実在する団体名は変えてあります)」の脅迫文を読み上げている子どもの声が録音されています。
そして気付くんです
「この声、自分じゃん。」
俊也さんは自営業でテーラーを営んでいます。父親が開業した店を引きつぎ、結婚もして2歳の娘がいる36歳。もし自分が犯行に関与していたとして、それが世間に知れ渡ったとしたら、今の生活は崩壊してしまうのではないかと恐怖に怯えます。
「何かの間違いでは?」と願いながら、ユーチューブに上がっている事件報道の動画と、カセットテープとを何度聞き比べても脅迫文を読む子どもの声は同じ声。そのくだりは「自分だったら」と考えると鳥肌が立つオープニングでした。
もう一人の主人公、阿久津英士さんは大手新聞社に勤める記者さんです。何気なく就職した新聞社で高い志もなく勤めてきた36歳。上司に年末企画に「ギンガ・萬堂事件の特集やるからお前担当しろ」と言われます。
しぶしぶ始める取材ですが、根が真面目なせいか、ちょっとずつちょっとずつ取材を進めていくうちに、事件の新しいネタを見つけ始めます。阿久津さんパートの物語は「鳴かず飛ばずだった新聞記者が、昭和の未解決事件の真相に迫りながら、ジャーナリストとしての使命に目覚めていく」物語です。
頑張る阿久津さんを応援したくなる一方、彼の取材が進めば進むほど、曽根さんの背中が見え隠れし始めます。そのやりとりがものすごいハラハラさせるんです。すごいストーリー展開です。
そして「そうきたか」というラストの展開。ここに書いてしまいたいけどもったいないので書きません。
ひとつだけ書くと、犯罪加害者の身内の人権とか人生に対して、マスコミや一般人がいかに無頓着かっていうことを強く考えさせられました。ぼくは2008年に起きた秋葉原殺傷事件の犯人の弟さんのニュースを思い出しました。自殺しちゃいましたよね。
それにしても、これどこまで事実でどこからフィクションなんでしょう?時効を迎えた事件ですから、本当に犯人に取材して書いたんじゃないかと思っちゃうような物語です。
新年早々、すごい小説と出会いました。