こんにちは、りとです。
今日は津久井五月さん著の小説『コルヌトピア』の感想を書こうと思います!
あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください
他であまり見たことがない設定の2084年の東京が舞台
実はぼく、お恥ずかしながら60ページくらい読み進めるまで舞台のイメージがうまく思い描けませんでした。
それくらい凝った設定のSFなんですね。
物語の舞台は2084年の東京なのですが、2049年に首都直下型地震が起き東京は一度壊滅的な被害を受けています。
しかし、東京は当時研究が進められていた、全く新しいタイプの情報演算技術「フロラ」の実用化によって、先進的な計算資源都市として復活しています。
この「フロラ」なのですが、植物の細胞の中を流れる電気信号を使って、情報の読み書きや通信を行う技術、という設定なのです。
文系、というよりはもはや「感性で生きてる系」のぼくの脳内では、つまりぼくらの身の回りにある情報端末の、CPUやハードディスク、ネット回線など全てが植物を使った「フロラ」というものに取って代わっている、というイメージでなんとなく納得しました。この辺り、ぜひ理系の皆様にはどのような世界をイメージされるのか感想をお聞きしたいです。
ぼくらが情報通信ネットワークを張り巡らせるように、作中の東京は緑にあふれています。そして、人間はうなじの部分に装着した「ウムヴェルト」という動物のツノのような形状の端末でフロラと情報のやり取りをします。
情報の入力をするための、ぼくらが使っているPCやタブレットといったものは「映像紙」、ポケットに入れて連絡を取り合う携帯電話やスマホのようなものは「カード」と表現されます。
工業化、電子化が進んで人が生物としての本質を失いかけている、とか自然な暮らしに還ろう、とかそういった話の時に必ず出てくる「でも今の便利さを手放すのは無理よね」みたいな対立が無い、「近代化」と「自然回帰」が無理なく共存している世界観です。
この独特な世界観に惹かれちゃった方は、もうその時点で楽しめること間違いナシです。
緑と情報の洪水の中で居場所を探す2人が主人公
舞台設定について熱く語りすぎて主人公とあらすじの話を忘れていました。
主人公の「砂山淵彦」さんは、フロラ設計企業に務める28歳の技術者です。未来のシステムエンジニアだと認識しました。彼の会社に、火災によってフロラが使えなくなるトラブルの連絡が入り、淵彦さんは調査に向かいます。
しかしこのトラブルが思ったより厄介なもので、技術者の視点からでは解決しそうにありません。しかも、規模の大きさからして都市機能に影響が出そうです。そこでフロラを植物の観点から研究している若き天才「折口鶲(ヒタキ)」さんに、調査協力を依頼することとなります。
…という物語です。
事件の調査を進めることが物語の柱となるのですが、そんなことより深く語られるのが、淵彦さんとヒタキさんの2人がそれぞれの仕事についた経緯や、日々感じていること、フロラに対しての想い、などでした。
これは「フロラ」なんていう全く新しいタイプの技術が発明されてなくても、現状、日々ぼくらが情報通信技術に触れながら、誰でも大なり小なり感じていることに通じているように思いました。
上っ面、というかハード面がいかに整備されても、ぼくらの内面はいつの時代も変わらないのかもね、と訴えられているような、人と人の繋がりというか、温もりの大切さについて考えさせられる、そんなお話でした。