【読書感想】『人ノ町』刺激のある旅物語は面白い

詠坂 雄二さん著の小説『人ノ町』を読み終えました。

不思議な雰囲気を纏った小説だったなぁ…という印象のこの物語の感想を今日は書こうと思います。ネタバレを避けつつあらすじを書きます。よければお付き合いください。

人ノ町

人ノ町

 

ゆっくりと文明が廃れていく世界を旅する一人の女性の物語

この物語は 「彼女」と称される旅人が各章ごとに1つの町を訪れて、そこでいろんな人と語り合ったり、ちょっとした出来事に巻き込まれたり、何か思うところがあったりしながら次の町へ行くというオムニバス形式になっていました。

舞台は多分、未来の地球なんだと思います。

かつて高度な文明を築き上げていたものの、人の手に余った技術を手放し、滅んでいくってほどではないにせよ、徐々に後退していく人類、みたいな印象を受ける世界観です。

そんな中を一人旅する「旅人」なのですが、この旅人の人物像もイマイチ掴みきれません。「彼女」と言われるので「女性なのだな」ってことと、旅慣れた感じであること、そして町に着くとまずは食事をとること、くらいしかわからないのです。

そんな不思議な旅人さんが、それぞれの町の個性や特徴に触れながら、町ごとの成り立ちや歴史に触れたり、たまに命の危険に晒されながら旅を続けていきます。

「キノっぽいな」

って思いました。

各章のタイトルと町の概要は以下のような感じです。

  1. 風ノ町…年中風が吹き続ける町
  2. 犬ノ町…町中に犬がいる町
  3. 日ノ町…太陽の神を信仰している町
  4. 石ノ町…人がおらず廃墟?遺跡?となった町
  5. 王ノ町…住人たちが町を創設した人物を「王」と奉る町

これらの町を旅しながら、朧気に少しずつこの世界の置かれた状況が見えてきます。

そして、物語のラストで「この旅人はなぜ旅をしているのか」が語られます。

しかし、それ以上のお話はなく「2巻へ続く」くらいの勢いで終わります。

世界やそれぞれの町の秘密に触れるため、ちょっとミステリー的な要素もありましたが、淡々と話が進む分、淡々と読み進めていくことができる、ライトボディな小説でした。

こういう話は出先で読むのがちょうど良いな、と思いました。

ぼくはこの小説を旅行先で読みました。

もう少し詳しくいうと、この夏、息子の転校してしまった「親友」に会いに引っ越し先の広島市を訪ねる、という家族旅行をしました。

奥さんもママ友同士だったこともあったのですが、ぼくはそんなに面識もなかったので、その友人宅へ家族を送って行った後の数時間、ぼくは自由時間を手にしました。

そこでぼくは、事前にネットで調べた「ヨシダナギ写真展」を見に行くことにしました。

ヨシダナギさんってご存知でしょうか?

アフリカの少数部族の写真を撮るため自らも裸になり寝食を共にする美人カメラマン、なんて紹介をされる方なのですが、彼女の写真は「遠い昔はるか彼方の銀河系で」なんてテロップが入りそうなくらいかっこいいんです。ご存知ない方で興味を持たれた方は「ヨシダナギ」で画像検索するか、下記オフィシャルブログをご覧になって見てください。

ameblo.jp

ワクワクしながら会場に行ってみたところなんと「写真展は2日後だった」ことが判明!

絶望とともにフラフラした挙句、結局よく知ってるスタバに入ってコーヒー一杯でずっと読んでたのがこの小説だったのです。

しかし、これが存外良かったのです。

旅をテーマにした物語を、知らない場所で読むってなかなか良いです。

微妙に本の世界とリンクした感じがして、この本の持つ独特な雰囲気も手伝って、不思議な時間でした。

こんな体験ならまたしたいので、どこか旅先でまた放流させてもらえたら良いな、って思った夏の思い出でした。