【読書感想】『ネット狂詩曲』中国発のブラックユーモア小説!なかなかにエグいっす!

年末に「『三体』が面白かった!」って記事を書きました。

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このお話は「文化革命で絶望したある学者さん」のエピソードが発端となって始まるSF物語で、「文化革命をネタにしても良いんだ!?」ってまず驚かされるのが面白いところなんですよね。

で、今日感想を書こうと思う『ネット狂詩曲』って小説も「え!これ小説のネタにしてもOKなんだ!?」っていうような展開をしていくお話なんですよ。

以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけくださいね。

ネット狂詩曲

ネット狂詩曲

  • 作者:劉 震雲
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2018/08/09
  • メディア: 単行本
 

中国のネットで話題になった実話をもとにした詐欺と汚職と下半身の物語 

構成としては、3人の主人公の物語がオムニバス形式で語られ、最後にそれらがひとつの事件として集約されていくようになっています。

1つめのお話は「牛小麗」という田舎町で暮らす勝気で美人な20歳の女性が主人公です。

彼女には嫁に逃げられた気弱な兄が居るのですが、小麗が嫁に行くことになったので、自分の代わりに兄の面倒をみてくれる新しい嫁を、さらに貧しい村から借金して買ってくることにするんです。

しかし、その新しい嫁が新婚4日で失踪。借金だけが残った形になります。

怒った小麗は逃げた嫁を探す旅に出ます。

しかし、逃げた嫁が語っていた名前や出身は全てでたらめ。しかも美人な小麗の旅にはいろんな危険がつきまとってきます。

旅先で全ての手がかりが途絶え、途方に暮れた小麗に声をかけてきたのは…。

2つめのお話は「李安邦」という政治家です。彼は地道な努力としたたかな政治ゲームの末に常務副省長という役職にまで上り詰め、もうすぐ「上がり」に行けるかどうか?というところまで来ています。

そんな彼の大きな悩みであったドラ息子が「ここが正念場!」というタイミングで自動車事故を起こし、助手席に乗せていた売春婦を死なせてしまいます。しかも事故当時下半身丸出しだったというおまけ付き。

「こんな事が明るみになれば自分は終わりだ」と、自身の息のかかった警察官に「もみ消し」を依頼するのですが…。

3つ目の話は、とある県で道路局長を務める「楊開拓」さんです。彼も自分の務める県のインフラ整備のために尽力していた立派な人だったのですが、彼の管轄のとある橋が崩落事故を起こし、橋を渡ってた20名ほどの人が犠牲となる事故が起きます。

現場で出くわした国のお偉方に詰め寄られた楊さんが、とっさに浮かべた「苦笑い」がネットに流出します。

前後を切り取られた「苦笑い」は「崩落事故を見て笑っている無責任局長」として拡散されます。

さらに間が悪いことに、休暇中で親戚の結婚式に出席してた時に急に呼び出されたものだから、普段はつけていない「高価な腕時計」を巻いていて、その事が話題となり、楊さんの過去のインタビュー記事などがピックアップされ「これだけの数の高級腕時計を全部買おうと思ったら、彼は生まれる前から働かないといけない。」という事実が明るみになってしまいます。

…という3つの物語なんですね。

これらは、ネットで話題になった実際のニュースが元ネタなんだそうです。

そしてこれらが「もしもひとつの事件につながったら」という架空の事件へと姿を変えていく様は「へぇ!」って驚かされます。

と、同時に、あまりにブラックユーモア過ぎて、痛快ではあるものの決して晴れやかな読後感を味わえるものではないというお話なんです。

3つの物語に共通するのが、ネットの炎上によって人生を左右されるって部分なんです。

もちろん、不正や詐欺を働いてるのはいいことではないわけですが、なんかこう、「被害者の気持ちになってみろ!」と被害者の気持ちをかくにんせずに言う気持ち悪さというか、そーいうのが後半滲み出てくるんです。

ぼくもブログなんかやってるせいで、日々思ったことや感じたことを好き勝手書いてますが、天狗にならないよう、皆さんにいろいろ教えてもらってる立場を忘れないようにしたいもんだな、なんて思う次第です。

そして、そんな気持ち悪さを見事に中和するような、3つの物語が互いに影響与え合って1つの物語になってく感は手放しで「面白い!」て感じられる、そんなお話だと思いました。