【読書感想】『網内人』このお話、物語の構成がすごい!

今年もまだ折り返しを過ぎたところではありますが、今年の個人的ベスト作にノミネートする小説に出会いました。

陳浩基(ちん・こうき)さん著の小説『網内人』です。

以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけくださいね。

主人公の境遇が辛すぎる 

この小説、めっちゃ面白かったんですが物語冒頭は「読むのやめようかな…」って思うくらい辛かったです。

物語の舞台は香港です。

主人公の「アイ」さんは、派遣で働く図書館司書です。

いつものように仕事を終え、帰路についてたアイさんは自宅アパートの周辺が騒然となってることに気がつきます。

アイさんの妹である「シウマン」がベランダから飛び降り自殺をしてたんです。

2人のお父さんは、仕事中に事故で亡くなりました。

お父さんの死後、お母さんは身を粉にして働きます。

アイさんもそんなお母さんを助けようと、進学せず派遣で働くことにします。

アイさんが働き始めたことで、少し生活に余裕が出てきたところで、お母さんに癌が見つかります。

体に不調がありつつも、これまで仕事を優先してきたお母さんはもはや末期で、そのまま世を去ってしまいます。

シウマンはまだ中学生です。

「彼女だけは幸せにしなければ」とアイさんはいっそう仕事に励むのですが、今度はシウマンが通学中に電車で痴漢に遭います。

偶然居合わせた勝ち気なおばさんに助けてもらって犯人は捕まるのですが、その件で学校で有名人になってしまいます。

さらに後日、ネットの掲示板に「ぼくのおじさんが痴漢の冤罪で逮捕された件について」という書き込みがされ、そこには「この女子中学生とおじさんは以前トラブルがあって、おじさんは因縁をつけられていた。そいつは飲酒、喫煙、ドラッグ、援助交際をやってるとんでもないやつだ。」と書かれていたのです。

このスレッドがネットで大炎上し、ネット民によってシウマンは個人情報が暴かれ週刊誌も嗅ぎつけ、2人の生活がめちゃくちゃに荒らされてたのです。

どうっすか?

もう、SAN値ガンガンに削られませんか!?

でも、ここからが面白いんですよ!

全てを失ったアイさんは、ネットに書き込みをした痴漢の甥になんであんな書き込みをしたのか聞いてやろうと思い、職場の先輩の知り合いに探偵を紹介してもらいます。

しかし、その探偵の調査によって、痴漢の男に甥なんていないことがわかります。

困惑するアイさんに「こういう事件に詳しい男がいる」と、探偵さんが紹介してくれたのが「アニエ」という天才ハッカーです。

アイの依頼を始めは断るアニエでしたが、数日後「気が変わった」と引き受けてくれます。

書き込みを行った甥を名乗る男は、ネット上での痕跡を完全に消していて、自分と同じハッカーの仕業だとアニエは言います。

つまり、ネットに詳しい人物が、シウマンを陥れるためだけに、痴漢の甥を名乗って書き込みをしたということなんです。

一体誰が何のために?

物語の構成がすごい

もう読む予定の方はここまでで「戻る」ボタンを押してください。

お読みいただきありがとうございました。

ではもうちょっとだけ続きの話をさせてください。

じつは、読者にはかなり早い段階で犯人が明かされます。

倒叙ミステリーの一種って言っていいかもしれません。

お話は以後、アイさん視点と犯人視点が交互に語られながら進んでいくんです。

しかも、アイさんパートはどんどん真犯人に迫っていくのに、真犯人パートの話は事件に関係のないサクセスストーリーが描かれていきます。

このあたりでもう「これは一体どんなラストになるんだ?」とページをめくる手がとまらなくなります。

そして、残りのページを3分の1ほど残してアイとアニエも犯人にたどり着きます。

そこからが怒涛の展開で、以後はアイさんが新しい人生を手に入れるためのお話で、ここまでのミステリーは全てそのための伏線だったんだなとぼくは思いました。

壮大な仕掛けです。

思わず「そーいうことか!」と唸らされます。

また、映像ではできない小説ならではのミスリードが何重にも仕掛けてあって、そこでもまた「そーいうことか!」と小説の面白さも感じさせてくれる作品でした。

正義の味方ではない

物語を面白くしてるのは、アニエです。

いまいち捉え所のないキャラですが、正義の味方ではなく、ズルいことして甘い汁を吸うヤツが嫌いで、個人的に制裁を加えるのが趣味って性格です。

アイにも「何としてでも犯人を見つけたいか」と試したりします。

そんな破天荒なアニエと、マジメ一辺倒なアイのデコボコっぷりがぐいぐい物語に引き込んでくれました。

そして「その後」を妄想せずにはいられないラストで、アイさん幸せになってくれたらいいなあ〜、なんて思いながら本を閉じました。

繰り返しますが構成がすごい。ぼくは文章かくの苦手ですが、小説書いたりするのが好きな方は堪らないんじゃないでしょうか?

ほんと楽しい読書体験でした。