【読書感想】『神前酔狂宴』結婚披露宴の現実と働くモチベーション

ものすごく面白い小説を読みました。

古谷田奈月さん著の『神前酔狂宴』という小説です。

神前酔狂宴

神前酔狂宴

  • 作者:古谷田奈月
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 単行本
 

以下、あらすじ紹介程度のネタバレありで語らせてください。

主人公の浜野くんは、地元の高校を卒業後、特に大きな志もなくふらっと東京に出てきます。

そして「時給が良いから」という理由で、明治天皇に支え「軍神」とまで言われた人物を神と祀った神社に併設された結婚式場でバイトを始めるんです。

なんとなーく始めは働くんですが、次々訪れる新郎新婦たちが、「戦いの神」に永遠の愛を誓い、自分たちで呼んだ客に主役とおだててもらい、職場の上司に馴れ初めを語ったり、ケーキ切って見せたり手紙をよみあったり、そういったやりとりにびっくりするような金額が動いてること全てに馬鹿馬鹿しさを感じつつも、その虚飾の限りを尽くす新郎新婦たちと、そのお金が自分の給料になってることに感動を覚え「自分もこの茶番劇のいちパーツとして全力を尽くさねば」という謎の楽しみを見出しこの仕事にのめり込んでいくんです。

そんな浜野の隣には「梶」という同期の相棒然としたパートナーをはじめ、同年代の仲間や先輩たちとの人間関係の悲喜交々な群像劇も展開されていきます。

ぼくはこの物語を「面白い!」って思ったポイントが2つあります。

ひとつは、このお話が結婚披露宴を「茶番である」とバッサリ切っちゃってる潔さです。

めっちゃわかるんですよ。

ぼくも中二病を患ってた学生時代「俺は将来結婚式はやらん」って思ってたんです。

新郎新婦からの席の距離で親族同士が目くじら立てあってる一方で一番祝ってほしい友人たちがめっちゃ遠くに座ってたり、「3万円包むもの」ってのも意味わからなかったし、とにかく格式を重んじる感じが鼻についてました。

え?じゃあ結婚披露宴しなかったのかって?

それが、したんですよね。

大人になって、いろんなモノの見方がわかるようになってくると、あれはつまり花嫁の満足感と親族の建前のためのものだって思えるようになったんです。

そんなぼくの今の結論を言えば「奥さんが喜ぶならする」そして「やるなら奥さんが満足するよう全力でアシストする」です。

なのでぼくも浜野くんのいうところの「虚飾の限り」に目一杯乗っかろうと思い、自分でウェルカムボードも式次第もデザインしたり、いろいろ自分なりに演出に凝りました。

なのでなんか、脇役として披露宴に参加した認識が強いですが、達成感めっちゃ感じてます。

そんな、あの時のぼくの想いを余すことなく描いてくれてるような、そんなお話なんですよね。

そして、もう1つの面白さが、浜野くんの姿勢です。

浜野くんは結婚披露宴が虚飾の限りの茶番だって気付いて、そこでシラけてしまうのではなく、それを面白さだと感じて目一杯楽しもうと思うようになるんです。

これってすごいことですよね。

ある種の仕事の真髄だと思うんです。

これまた自分語りなのですが、ぼくそこそこ仕事で評価されてるって自己分析してるんですが、では全身全霊で仕事に情熱を注いでるかって言われるとそんなことなくて、どこかで一線引いて見てる節があるんですよ。

なので、同僚に仕事について熱く語られると「おおう」ってなることとかもあるのが正直なところです。

これは人それぞれの性格によると思うんですが、情熱を注ぎ過ぎて空回りするとか、それが何かの拍子に燃え尽きて、最悪いなくなっちゃうとか、あるじゃないですか。

「なんのためにやってるのか意味を見出せない仕事」なんてのも多いもんですが、そこでフテくされるのではなく、いっそ「これはすごい茶番だ!」って楽しんで、それで実績出して評価上げてくって、すごい能力だと思うんです。

繰り返しますが、これはその人の性格にもよるものなので、みんながみんな浜野くんみたいなマインドで働くことを勧めたりする気は毛頭ないのですが(そして物語のラストはそんな浜野くんのスタンスの1つの「行き着く先」が描かれるんですが)、それでも「刺さる人には刺さる働き方」として、すごく参考になるな~って思いました。

そんなこんなで、物語は10数年の浜野くんのお仕事人生を描いていきます。

着実に評価されていき、いつしか式場の一番大きなホールのキャプテンにまで上り詰め最高額の時給(そうなんです、ずっと彼は非正規なんです。そこもまたこの物語の示唆に富んだところだと思いました。)となった彼が見た、神様の前で行われる酔狂な宴会の真髄とは!?

もう一度書きますがこの小説ものすごく面白かったです。