【読書感想】『流浪の月』思いやりとマウントと正義と暴力

またしても物凄い小説を読んでしまいました。

凪良ゆうさん著の小説『流浪の月』です。 

流浪の月

流浪の月

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: Kindle版
 

もうね、余韻がすごくて大変ですよ。

切ない…。

ああ切ない。

それでいて、ぼくらにガンガンに警鐘を鳴らしてくる怪作だと思いました。

やばいっす。

このヤバさを語りたくて今日は感想書きます。

以下、あらすじ紹介程度のネタバレがありますので、本屋大賞の作品ですし、既に読むつもりの方はお気をつけくださいね。

主人公の「家内更紗」ちゃんは、自由奔放なお母さんと、そんなお母さんのことを心から愛しているお父さんと3人で幸せに暮らしていました。

お母さんは昼間でもお酒を飲み、綺麗なものを愛でるのが好きで、更紗ちゃんにも可愛い服や鞄を持たせ、嫌なことがあった日の夕飯はアイスクリームで終わらせ、更紗ちゃんの前でもお父さんとキスをします。

近所からは「変わり者家族」と言われて、学校でもからかわれたりしましたが、更紗ちゃんは両親のことが大好きだったので、全然嫌ではありませんでした。

しかし、お父さんが病気で死にます。

大好きなお父さんの死に耐えられなかったお母さんは、更紗ちゃんを残して失踪します。

更紗ちゃんは叔母さんの家の子になるのですが、お母さんと違って「ちゃんとした」叔母さんは、更紗ちゃんのこれまでの人生全てを否定し「普通の子」を求めます。

さらに、叔母さんの息子が夜中に更紗ちゃんの寝室に忍び込み、身体中を触ってくるのです…。

大好きな両親がいなくなり、その両親との生活の全てを否定されて「普通の子」を演じ、毎晩ワケもわからず身体中を触られることに徐々に疲弊していく更紗ちゃん。

いつものように、学校帰りに「お友達」と「仲の良いふり」をしてお別れした後、帰りたくなくて公園のベンチに座っていたら、大学生の男に人に声をかけられます。

「佐伯文」というこの男は「家に帰りたくない」という更紗ちゃんに「うちにくる?」と問います。

…と、ここまでなら「なんか見たことあるエピソードかも?」ってなるじゃないですか?

文くんも、更紗ちゃんには一切手を出さないし、歳の差を超えた真実の愛的な展開を見せます。

ちなみに書き忘れましたが更紗ちゃんは9歳です。

でも、ここからがスゴいんですよ。

更紗ちゃんは文の家で、お父さんが死んで以来の穏やかな日々を過ごすんです。

心から救われるんです。

更紗ちゃんは「少女誘拐事件」として自分のことがテレビで報じられてるのを目にします。

しかし文くんは、なんだか他人事のようです。

それから2ヶ月経ったある日、2人は動物園にパンダを見に行きます。

そして通報されるんです。

警察が来て、この幸せな生活が終わって叔母さんの家に帰ることに恐怖を感じた更紗ちゃんは号泣します。

「少女を誘拐し2ヶ月間監禁した犯人」として連行される文くんと、そんな文くんの名前を泣きじゃくりながら叫ぶ更紗ちゃん。

その様子を撮影し、ネットに上げる一般人…。

それから15年の歳月が経ちました。

ってところからが、この物語の本題なんですよ!

叔母さんの息子によって負わされた更紗ちゃんの性的なトラウマは、マスコミの手によって「卑劣なロリコン犯罪者に乱暴された」と報じられ「かわいそうな被害者」というレッテルを更紗ちゃんに貼りました。

更紗ちゃんがどれだけ「ふみは悪くない」と言っても、怖い目にあった子どもの自己防衛本能的なものとして扱われます。

以来ずっと、彼女は好奇と哀れみの目に晒され大人になるんです。

YouTubeに上げられた遊園地の逮捕劇も、15年経っても閲覧可能な状態となっていました。

そんな中で、2人が再開してしまうわけなんですが…もう、マジで読んでいただきたい!!

著者さんの文章力と言えば良いでしょうか?

そんな稚拙な言葉で表現してはいけないんですが、情景も、場面の登場人物の心情も鮮やかに目に浮かぶようで、それでいて柔らかい文章でスルスル読めてしまうんです。

冒頭のロリっ子更紗ちゃんの幸せな両親との日々とそこからの転落感が半端なくて、心が元気じゃない時に読んだら多分閉じてしまう勢いです。

ぼくも何度か「あーしんどい…読むのやめようかな…」と思ったんですが、続き…続きが強烈に気になるんですよ!

そして「うんうん、わかってる。何にも言わなくても良いよ。つらかったよね…。」と上から目線で言ってくる更紗ちゃんの周囲の人たち全てに「違う!文は良いやつだったんだ!更紗ちゃんの辛さに気づいて手を差し伸べたのは彼だけだったんだ!」と怒りを覚えながら、はたと気がつくんですよ。

「ぼくらネットで、同じことしてやしないか?」と。

ニュースでもなんでも良いんですが、数行の記事を読んだだけで全て分かった気になって、そして大抵は自分にとって良い感じのフィルターを通した状態で共感したり怒ったり、賛同したり批判したり…。

この作品は、そんな行動に、ガンガンに、けたたましくサイレンを鳴らしているように思えました。

このサイレンのような警鐘は、物語が淡々と進むせいで余計に大きな音を立てて響いてきます。

とにかく、再開した2人に幸せになって欲しい。

祈るような気持ちでページをめくりました。

そんな2人のラストとは…

もう1回書きますね?

マジで読んでいただきたい!