ドキドキハラハラな推理小説を読みました。
香港出身の小説家、陳 浩基さん著の『13・67』です。
香港が舞台の物語なんです。
「ロー」さんという香港警察の警視が、とある大企業の社長殺害事件の容疑者を病院の一室に集めるところから始まるんです。
迷宮入りしかけていたこの事件の真相を暴くため、自分の師匠であり「天眼」の異名をとる香港警察一の名探偵「クワン大師」に協力を依頼したのだとローは言います。
ではなぜ集まった場所が病室なのか。
実は、かなりの高齢のクワンは末期癌を患っていて、昏睡状態で病室に横たわっている老人こそがクワンだというのです。
「どうやって推理をするのだ!?」と怒る容疑者の皆さんに「大師は身動きを取ることはできないが耳は聞こえて意識もある。これから質問を大師に投げかけ、パソコンのモニターで脳波を読み取りYES・NOで答えてもらう」と説明します。
「なんじゃそりゃ!」と驚く容疑者の皆さん。
ぼくも一緒に「なんじゃそりゃ!」って思いました。
こんな安楽椅子探偵モノは初めてです。
あまりのSFに、はじめは正直「ちょっと読むのをやめようかな?」とも思ったんですが、実はこの推理方法が、犯人を炙り出すためのローとクワンの仕掛けた罠なんです。
真犯人の狡猾さと、それを打ち破るための罠が完成したときにはぼくはもぉ「やべぇ!この小説オモシロっ!」ってなってました。
第1章のこの事件は、クワンにとって生涯最後の事件となります。
では第2章は一体どうなるかというと、中間管理職となって一部隊を率いるようになったローが、大きなミッションで失敗をしていまい、定年を迎えたあと香港警察の顧問となったクワンのところに相談にいくシーンから始まるんです。
そーなんです。
この小説は、クワンの警察人生を逆回しで追っていくお話なんです。
第3章は、クワンが定年を迎える日に起きた事件の話、第4章はクワンが警察官として脂が乗りに乗ってる頃に出会した凶悪犯との戦い…てな具合で遡っていきます。
そんな物語はどういうふうに締め括るかというと、将来「天眼」と言われるようになる香港警察一の探偵クワンの原点になった事件が語られるのですが、その事件が第1章の事件とリンクするんです。
なんて仕掛けだ!って思いました。
そんなことある!?とも思いましたが、よくよく考えたら、人生なんて日々の積み重ねですよね。
ぼくも仕事で、いつ撒いたかわからない種が、忘れた頃にパッと開いたりすることがありますし、だから仕事って面白いなって思います。
積み重ねは人に限ったことではなくて、国や文化の歴史もそうですよね。
ぼくの人生の転機は、あの時のアレでした、みたいなのって誰にでも何かしらあると思います。
そーいうのを、追っかけていくお話でした。
第一章の舞台である2013年は、雨傘革命前夜の香港、最終章の67年は反英暴動真っ最中と史実も物語に絡んできます。
イギリスの占領下にあった香港が独立して、政治や警察内部のゴタゴタの中、伝説の刑事が自分の正義をいかに確立していったのか。そして彼が弟子に伝えたものはなんだったのか。
クワンさんの人生を遡りながら、香港の歴史も遡り、ミステリを堪能する。
楽しいお話でした。