小説で久々に泣いてしまいました。
恋人が不治の病で余命幾ばくもなくて感動する系ではなく「良かったねぇ!」って涙が込み上げてくる小説を読んでしまいました。
青山美智子さん著の『お探し物は図書室まで』です。
以下、あらすじ紹介程度のネタバレがあります。
爽やかな涙を流したい方はしばしお付き合いください。
この小説は、人生の迷子になっている人が、コミュニティセンターに併設された図書室にひょんなきっかけで訪れて、不思議な司書さんにおすすめされた本を読んで進む道を見つけてく様を描いたオムニバス形式のお話です。
各章のタイトルがそのままその章の主人公のプロフィールになっています。
ちょっと引用させていただきながら、あらすじをりとフィルターで書かせてもらいます。
「一章 朋香 21歳 婦人服販売員」
田舎が嫌で上京してスーパーの婦人服売り場に就職した朋香ちゃん。地元の友人には「アパレル関係で働いてる」と言いながら、日々荒れた部屋で菓子パンやカップラーメンを食べる生活を送ってて「こんなはずでは?」となっている。
「二章 諒 35歳 家具メーカー経理部」
「いつか自分のアンティーク雑貨店を開きたい」と思いながら、やる気のない上司とコネで入社した社長令嬢の部下の尻拭いに追われる日々を送ってる。慌ただしくすぎていく毎日に「いつかって、いつだ?」となってる。
「三章 夏美 40歳 元編集者」
雑誌社でバリバリキャリアウーマンとして働いて「次期編集長なのでは?」と噂されるまでなった夏美さんでしたが、妊娠・出産をきっかけに窓際部署へ。「自分の今まではなんだったのだろう?」ってなってる。
「四章 浩弥 30歳 ニート」
子どもの頃から絵を描くのが大好きで、イラストの専門学校を卒業するもイラストレーターにはなれず、他の仕事をやってみても長続きせず「おれは何の価値もない人間だ」ってなってる。
「五章 正雄 65歳 定年退職」
これまで仕事人間だった正雄さん。退職後に、自分にはこれといった趣味が何もないことに気がついてしまいます。思ってた以上に元気なのに、やることがない。「これからどうしたら良いんだろう?」ってなってる。
そんな5人がふらっと訪れた図書室で、不思議な司書「小町さゆり」さんに本を紹介されるわけです。
一見無愛想なのに、なぜか安心感というか惹きつけられる魅力をもった、見た人によって、ベイマックスのようだったり、鏡餅のようだったりといった印象を与えられるさゆりさんに勧められ、全く読む気のなかった本を半ば強制的に読むのですが、それをきっかけに5人の世界の見え方が一変します。
この展開が、本当に良いんですよね。
「本なんかで、そんなことある?」なんてことは、わざわさネットで個人の読書感想記事なんかを読むような、つまり今これを読んでる方は思われないことでしょう。
この小説ほどドラマチックに一冊の本で人生を反転させるほどの事はなかなかないにしても、たまたま読んだ本の一章とか一編とかが自分に刺さって、そういうものが積み重なってって自分の支えになったり指標になったりってことはあると思うんですよ。
だからこそ、余計にこの小説が面白くて、時に主人公たちの気付きにウルっときてしまったり、読み終わったら「ああおれも図書館行かなきゃ!」って思ったりしてしまいます。
優しい文体で、するする読めてしまいます。
この小説、めっちゃオススメです。