【読書感想】『待ち遠しい』女に産まれてたらぼくは春子さんだったかもしれない

今日は柴崎友香さん著の小説『待ち遠しい』を読んだ感想を書こうと思います。

あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。 

待ち遠しい

待ち遠しい

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アラフォー独身女性が主人公

このお話の主人公である「春子」さんは、39歳の独身、ひとり暮らしの女性です。平日は印刷会社で事務職として働き、大学時代からの友人とお茶をしたり、趣味の消しゴムはんこ作りをしたりしながら、賃貸として出ていた一軒家の離れを借りて暮らしています。

そんな物語の冒頭、借りている部屋の母屋に暮らしていた高齢の大家さんが亡くなり、母屋には長女で夫も亡くしたばかりの、63歳の「ゆかり」さんが引っ越してきました。

おしゃべりが大好きで、わりと他人のパーソナルスペースにもドカドカと気さくに入ってくるゆかりさんに、春子さんははじめはドン引きするのですが、次第に心を許して仲良くなっていきます。

この母家の裏には、ゆかりさんの妹の息子夫婦の家もあります。

その家の奥さん、つまりゆかりさんにとっては義理の姪にあたる25歳の「沙希」ちゃんとも、春子さんは知り合い、物語はこの3人の、噛み合うような噛み合わないような交流を軸に進んでいくんです。

春子さんにめっちゃ共感

春子さんは39歳です。

この小説が2019に出版されているので、リアルタイムだとすればぼくと同い年なんですね。

そして美術系の大学を卒業して就職でめっちゃ苦労して、なんとか仕事にありついて、休日に創作を楽しむ。

他人にあんまり深入りしたくないし、されたくもない。

みんなで協力してわーっと盛り上がる学校行事みたいなイベントも昔から苦手。

気の合う友人といるのは好きだけど、決して四六時中一緒にいたいわけでもなくって、1人で好きなことに耽ってる時間が大好き。

なんかね、こう「女に産まれてたら俺は春子さんになってたな!」って思うんですよね。

「いや、お前結婚してるじゃん!」って言われるかもしれませんが、なんていうんでしょう、これはほら、男子特有の欲だけはあったっていうか。

ただ、合コンとか飲み会とか、そーいうのは「面倒くさいなぁ」って思うタチだったんですよね。

噛み合わない

そんなもう、感情移入しまくりの春子さんに対して、高度経済成長期を生きて「古き良き」伝統を重んじているゆかりさんと、一周してちょっと保守的なところもあるなんて言われるZ世代の沙希ちゃんの交流は、噛み合いそうで噛み合わないわけです。

そして、それぞれに譲れない信条みたいなものもあったり、そーいう思想に至った家庭環境もあったりして、あわや一触即発な展開になりかけたりしながら、危ういバランスで交流を続けていきます。

その展開に、ハラハラドキドキしながらページをめくる手が止まらなくなる、不思議な読み口の物語でした。

やはり春子さんに共感、しかし…。

結構ドロドロなヒューマンドラマも展開されるんですが、春子さんは持ち前の性格ゆえに、いつも目の前の展開に対して一歩引いて、まるで映画のシーンでも見てるかのような冷静な感想を抱くんですね。

それもなんだかすごくよくわかるんですよ。

ぼくも「これ何で起きたのかなー?」とか「他の人はどう思ってるのかなー?」とか、目の前の事象に対してぼんやりとした感想を持つことが多いです。自分ごとなのにどこかで他人事のように思えたり、考えないといけないことの外のことが妙に気になったり。

この感じは一体なんなんでしょうね。

創作とか好きな人には多いのかな?

そうは言っても、あくまでぼくは男なので、完全に同じ視点にはなれないんだろうな、とも思います。

結婚、出産、仕事にまつわる3人の価値観の不一致についても、あれやこれやと綴られます。

これ、女性の方が読まれたらどう思うんだろう?

そして実は、この物語に登場する男性陣ってみんなメインの女性陣に対して思いやりが足りて無いんですが、彼らは彼らでそれぞれの人生で「男はこうあれ」みたいなのを刷り込まれてて、可哀想だなって思いました。

ぜひ感想を共有したい、そんなことを思う小説でした。