【読書感想】『ブレイクニュース』今の社会風刺がみっちり詰まった作品でした

思わず一気読みの小説にまた出会ってしまったので今日は感想を書こうと思います。

薬丸岳さん著の『ブレイクニュース』です。

あらすじ紹介程度のネタバレがありますのでお気をつけください。

主人公は、言ってしまえばYouTuberなんです。

「野依美鈴」という年齢不詳のセクシー美女が「ブレイクニュース」という現代社会の問題を独自に取材した動画をYouTubeにアップします。

ずっと追いかけていた政治家の汚職ネタを「上からの圧力」で握り潰された雑誌記者の「真柄」さんは、先輩との世間話でブレイクニュースと美鈴さんのことを知り、興味を持ちます。

真柄さんが見たブレイクニュースの動画は、児童虐待の疑いをかけられたシングルマザーのお母さんを扱ったものでした。

胸元をはだけさせ、ずけずけと相手に無遠慮にインタビューする美鈴の姿に、始めは嫌悪感を抱く真柄さんでしたが、なんと自分達既存メディアでは辿り着けない真実にまで辿り着いてしまいます。

それは、真柄さんにとっては決して肯定できないジャーナリズムでありつつも、かと言って全面否定できない姿なんですね。

物語はその後、引きこもり、冤罪、パパ活をする若い女性たち…と今の社会問題を次々と取り上げていくのですが、これが毎回登場人物たちに一筋縄ではいかない裏の事情が複雑に張り巡らされていて、どの話にも「そー来たか!」ってどんでん返しがあるんですよ。

それは、物語としてハラハラドキドキさせられると共に、こちらへの痛烈な批判にも読み取れるわけです。

つまり「ニュースの上っ面だけ見てわかった気になってないか?」「正義の名の下に悪に鉄槌を下す〇〇警察になってないか?」といった、ネットの使い方の話です。

ブレイクニュースのコメント欄は、作中炎上しっぱなしで、その様相もなんだか今っぽいわけです。

大学生の頃、「これからは誰でも表現者になって世界の人と交流できる!」ってドキドキしてたインターネット老人会としては「いつの間にかこーなっちゃったなぁ〜、いや、昔からあるのはあったけど、もっと限定的な場所だったよな」ってついつい牧歌的な郷愁に駆られるような展開です。

そして次第に物語は、美鈴がなぜブレイクニュースを始めたのか、彼女の正体は?ってことが明かされていきます。

と同時に「あれ?残りこのページ数で決着つくの?」って不安になっていくのですが、なな、なんと、ラストは…ってそれはネタバレになってしまいますね!

でも、ぼくはこの物語のラストは読者に委ねられたっていうか、この話のラストがどうなる世の中にしたいのか考えなされと言われたような、そんな気がしました。

確かに賛否両論ある展開だとおもうんですが、賛否あってどっちも認められるのが多様性ですよね。

ブログやSNS、YouTubeを使って何かを発信してる人は何かしら考えてしまう、そんな話だなーと思いました。